連載:音楽機材とテクノロジー(第一回)横山克
横山克が語る、機材で『テクスチャーを作る』ことの重要性 日本のレコーディングスタジオへの提言も
「『MASCHINE』の導入で変化した制作手法」
ーー今お話いただいた制作手法は、『MASCHINE』の導入がかなり大きく影響していると思うのですが、やはり鍵盤を弾くのとパッドを叩くというのは、手癖から解放されたりするものですか?
横山:まさにそうですね。『MASCHINE』は一番最初に出たモデルからずっと使ってるんですけど、ここ数年の進化がすごくて。ビートメイクだけではなく、サンプルから作ったフレーズをパッドやリボンコントローラーで演奏する機能がとてもやりやすくなっています。鍵盤はないのに、音符の発想をしっかり取り入れることができるようになったのは大きいです。音楽理論の知識もしっかり使えます。ライブラリを作る、という制作手法においては『Ableton Live』を使うことが多いです。そして、それらで作った素材をまとめたり、映画音楽としてテンポや拍子をしっかり変えながらフィルムスコアリングして作るときは、変わらず『Cubase』を使います。
ーー使う手法、手段、あとは機材、ソフトもかなり多様になってきている。
横山:ビートメイク、サンプルメイク、テクスチャメイクもあれば、トラディショナルなオーケストラ・スタイルも大好きだからしっかり作りますし、とにかく関わるアシスタントさんたちは大変だと思います(笑)。
ーーアシスタントさんたちには普段、どのように指導しているんですか?
横山:まず最初に僕が勉強して、教えます。慣れてくると、自分たちだけで動いてくれるようになりますね。アシスタントさんたちには「『正しい』とされていることは、必ず変わる」ということを常日頃から言っています。僕がいま、「正しい」ことだと思って教えていることも、一年後にはガラッと変わるかもしれない、と。僕自身、『Cubase』のセッションファイルを見たら一目瞭然なんですけど、ソフトの使い方が2年間一緒だったことはないんです。
ーー色々な手段手法を使えるようになってくるなかで、変わらないものはありますか?
横山:ほとんどないと思います。本当に機材に縛られるのが嫌で、OSもどんどんアップデートしていくんです、動かなくなったソフトは容赦なく削除します。楽器も年月が経てば鳴らなくなるものがあるように、コンピューターも動かなくなるのが当然だと思っていて。それに振り回されないために、どう最新の違う手段を見つけることができるか、という点には気をつけています。
ーー機材においてはそういうものだとして、音源やソフトフェアに関してはどうですか?
横山:サンプルメイクをやるようになって、ライブラリは一方的に増え続けていますが、使い方は『Ableton Live』や『MASCHINE』を導入してからずいぶん変わりました。
ーーサンプリングのなかの一つとして使うというよりは、一個のエレメントとして扱う、みたいな?
横山:はい。音色の加工だけじゃなくて、フレーズとしてまた違う引き出し方もできるので。プラグインで、AIチックなメロディーメイクツールもあったりして、どんどん使っています。
ーーAIツールを使うのは意外ですね。
横山:もちろん万能ではありませんが、スケールの中で良さそうなフレーズを作ってくれたり。僕は、トラディショナルなやり方にとにかく縛られたくないんです。だけど、それを無視はしないっていうのがポリシーで。オーケストラを録るとか、しっかり弦のスコアを書く、音楽の勉強をするというのはトラディショナルなことだと思うんですけど、それはとても大事にしたいんです。敬意を常に持ちます。ミュージシャンと会話するとか、飲みに行くとかもそうです(笑)。
ーー横山さんは国内、海外のミュージシャンにもちゃんと連絡を取って会いに行く、というのもすごいなと思っているんですが。
横山:トラディショナルな考え方と今のやり方をしっかり同居させていきたいんですよね。
ーーとはいえ、手法や作り方、音色は変わっても、どことなく横山さんらしさみたいなものはそれぞれのお仕事に感じるところがあるんです。本人としては嫌かもしれませんが。
横山:いえ、実は目指しているのってそこなんです(笑)。僕自身の中では変えているつもりだし、変えなきゃいけないと思っているけど、同じ一人の人間がやるものだから、当然似通うものはありますし、そこまで手段と手法を変えてでも残るものは、作家性と呼んでもいいと思うんです。