日本のアニメはなぜフルCGを忌避し“ハイブリッド”な画面づくりを続ける? その理由を読み解く

 細田守監督による『未来のミライ』の見どころになっていたのが、悪夢的な「未来の東京駅」のシーンだった。ここでは、ほとんどのビジュアルが3次元コンピューター・グラフィックス(3DCG)によって構築されているのだという。だが主役である4歳児など、あくまで主要なキャラクターは、従来のように手描きによる2Dで表現されている。このような手法はとくに珍しいものとはいえないだろう。ここ10数年、2Dと3DCGを組み合わせる“ハイブリッド”な画面づくりが、日本の劇場アニメーションにおける主流の表現となっているのだ。

 ディズニー/ピクサーに代表されるように、大規模なアニメーション制作の潮流は、世界的にいまや3DCGに傾き、キャラクターを含め、すべてをCGで描く「フルCG」作品が増え続けている。たしかに日本でも、TVアニメを中心にフルCGが増えており、『GODZILLA 怪獣惑星』や『ニンジャバットマン』など、その波は劇場アニメーションにも及んでいる。とはいえ日本では、やはり手描きを中心とした手法が支配的だ。

 “ハイブリッド”な方式が選ばれている、この日本の劇場アニメーションの現状はどこからきているのか。ここではその理由を考えながら、これからの日本の劇場アニメーションの課題と今後の展望を、技術的な視点からうらなっていきたい。

従来の伝統的手法を捨て去ったディズニー

 ディズニーの実写映画『トロン』(1982年)は、世界ではじめて多くの場面でCGが用いられたといわれる作品だ。その後しばらくして、段階的にディズニーの劇場アニメでもCGが使われ始めた。『リトル・マーメイド』(1989年)では水の揺らぎなどのエフェクトとして、『アラジン』(1992年)では、生命を持った洞窟のようなファンタジックな表現などなど、CGの存在感は作品ごとに大きくなっていった。まさにこの時期、ディズニーのアニメーションはハイブリッド的な手法をとっていたといえる。

 後にディズニー、ピクサー両方の制作における代表的存在となるジョン・ラセターは、80年代にディズニーから一度解雇されている。彼は早くから全編CGによるアニメーション制作を進めようとし、伝統的な手描きのスタッフたちの反感を買ったといわれている。

 その後ラセターが身を寄せたのは、当時ジョージ・ルーカスが所有していたVFX制作会社「ILM」だった。その後ラセターの在籍していた部署は切り離され、CGアニメーション制作を行っていくことになる。それが後に大成功を収めるピクサー・アニメーション・スタジオの前身となったのだ。『トイ・ストーリー』(1995年)から始まる、フルCGの劇場アニメーションは、その抜本的な革新性によって広く衝撃を与え、興行的にも手法の新しさとしても、ディズニーの牙城を揺るがす存在になっていった。

 低迷期に入っていたディズニーはここで、一度は解雇したラセターを再び呼び寄せ、彼を制作の中心に据えようとした。普通ならはねつけても良さそうな境遇を経験しているラセターだが、かつてディズニーに入社できるまでディズニーのテーマパークでアルバイトをしていたというディズニー愛は深く、彼はその話を受け入れ、ピクサーとディズニー、両方の制作を統括する存在となった。

 しかし、このディズニーの選択は、今までの職人的な手描きアニメーターを手放す行為でもあった。職人技術は、職人同士が集まって切磋琢磨する工房あってこそのものである。ディズニーの歴史ある手描きアニメーション技術は、ここでかなりの部分が捨て去られることになった。それと並行して、ピクサーの成功から各社が本格的に、フルCGによる劇場アニメーション制作に挑戦し始めていく。

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