ゴジラをアニメで描く意味とは何か? 『GODZILLA 決戦機動増殖都市』が目指すテーマ

ゴジラをいま、アニメで描く意味

 本作では、異星人「ビルサルド」が対ゴジラ用として富士山麓に建造したメカゴジラが、起動前に破壊されてしまったという、前作の伏線が回収される。メカゴジラは「ナノメタル(自律思考金属体)」と呼ばれる、意識を持った金属によって作られており、その残骸は2万年の時間をかけ、徐々に周囲の異物を取り込み、分子の組成を組み替えながら増殖していき、ついにプラントのような巨大な都市を自力で建造するまでに至っていたのだ。異星人「ビルサルド」は、この異様な街を発見すると狂喜し、設備を利用し始める。そして、メカゴジラをふたたび建造してゴジラと対決させるよりも、この都市の特性を活かし、都市全体を使ってゴジラを撃ち倒す計画を立てる。つまり本作のメカゴジラは従来の姿とは全く異なる、都市そのもの「メカゴジラ・シティー」だったのだ。

 そしてその戦いは、防御設備によって侵入者の体力を削りながら撃退するコンピューターゲームのジャンル、「タワーディフェンス」に酷似する。『シン・ゴジラ』を含み、実写シリーズでは第1作より、自衛隊などによる「対ゴジラ待ち伏せ作戦」が敢行されたが、本作のそれはその“最新モード”と呼べるものであろう。ゴジラを誘導するハルオたちが操縦するパワードスーツも、ナノメタルによって、飛行する昆虫のような機動性を持つ「ヴァルチャー」にグレードアップ、ブンブン飛び回る姿が小気味いい。

 本作の戦いは、文字通りヒートアップしていき、アニメーションならではの荒唐無稽なレベルへと飛躍していく。この荒唐無稽で、あらゆる要素をSF的世界に乗せていくスタイルは、じつは北村龍平監督の『ゴジラ FINAL WARS』(2004年)に近いように感じられる。『ゴジラ FINAL WARS』のような内容を実写で完成させたことは、かなりすごいことだと思えるが、実写で突き抜けた表現をやると、どうしてもコメディーとしての色合いが濃くなってしまう。本作のようにアニメーションの手法で制作した方が、表現としては無理がないのではないだろうか。

 この戦いのなかでビルサルドたちは次第に狂気に足を踏み入れてゆく。人の姿を捨ててナノメタルと融合すれば、人の意志がメカゴジラ・シティーと一体化し、ゴジラに打ち勝てるだけのさらなる効率化が達成されるというのだ。しかし、金属と一体化することでゴジラを倒せたとして、その後はどうなるのか。そこには、やみくもに効率化され機械化された、人間味の無い生物が生き残るだけではないのか。

 ここまでくると、本シリーズがSFのかたちをとって、現実の社会のことを語っていることが分かってくる。本作では「ゴジラは人間が生み出したもの」だということが語られるように、人類は公害汚染、自然破壊など、経済活動によって自分の住みやすい環境を犠牲にしてしまった。そのしっぺ返しが「ゴジラ」であると述べられる。そして、劣悪な労働環境や弱者切り捨てなど、やはりやみくもな経済活動によって、人間すら犠牲にしていった社会そのものが「メカゴジラ・シティー」に重ねられている。人間と引き換えに得られる繁栄に何の意味があるのか。そして、人間を犠牲にする効率化一辺倒の社会システムは、やがては人類全体を滅ぼしてしまうかもしれないのだ。だからこそ、本作のクライマックスでハルオが下す決断は、そんな時代に生きている我々にカタルシスを与えるものになっている。


 実写第1作の『ゴジラ』(1954年)は、日本の復興と経済成長の真っただ中の時代、アメリカの核実験によって与えられた恐怖と、過去の戦災の記憶が、巨大な実体をともなって襲ってくるというものだった。時代とともに「ゴジラ」の定義は変わっていく。本作の「ゴジラ」は、そして「メカゴジラ」は、経済成長を成し遂げた末に停滞し、様々な問題に直面するようになった現在の日本に生きる人々の苦しみと、社会に対する深い絶望を具現化したものであるように思える。作り手たちは、自分たちが設定した、この難しい問題にどう決着をつけるのか。最終作となる第3作に、テーマへの答えがあることを期待したい。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『GODZILLA 決戦機動増殖都市』
2018年5月、全国公開
監督:静野孔文、瀬下寛之
ストーリー原案・脚本:虚淵玄(ニトロプラス)
製作:東宝
制作:ポリゴン・ピクチュアズ
配給:東宝映像事業部
(c)2018 TOHO CO., LTD.
公式サイト:godzilla-anime.com

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