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サニーデイ・サービス 曽我部恵一インタビュー

曽我部恵一が明かす、ストリーミングとの向き合い方 「実験を表現として捉えることが面白い」

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「『サニーデイってこういうバンドだよね』という先入観は常に覆したい」

ーーアーティストがチャレンジしている時代に、リスナーの視聴がどんどん受け身になっている。そんな風に昨今の日本のリスニングが鈍化しているように感じてしまいますが、いかがですか?

曽我部:額面通りの作品とリスナーのやり取りは本当につまらないと思います。感動する曲を作って提示して、世の中の人が「感動した」「感動しました」「泣けました」とつぶやく。こういう状況が今の日本じゃあまりにも多すぎて、本当に危ないと思います。SNSを見ると特にそう感じてしまう。連帯性のようなものを求めているのがすごく分かるんです。孤独症候群が強すぎて。話題になりやすいものばかりを作る世の中で、本当に良いのかと感じますね。例えば、夏目漱石の『こころ』は、自殺した「先生」の遺書の中身に本当に暗い闇の部分が綴られていくのだけど、暗さの中に自分の人生の本質だったり生き方を見つけて下さいと書いてあって。そういう考え方が今の世の中は受け入れられにくくなったなと。自殺をテーマに生きることを語れることが文学や音楽、アートの本質なんだよね。今はちょっとでも世の中のポジティビティに反すると駄目だ、と言われる雰囲気ができてしまった感はありますよね。

 『the CITY』の1曲目は「ラブソング 2」というタイトルだけど、歌詞は<Fuck you>を連呼しています。「I love you」と唄うこと、「愛」を唄うだけがラブソングなの? という思いがあって。自分の思いを歌詞にするなら、<Fuck you>でもいいじゃんって思った。だから、この曲はちょっとした問いかけでもあるんです。

ーー過去の“曽我部恵一”というイメージから遠ざかることは意識されています?

曽我部:「サニーデイってこういうバンドだよね」という先入観は常に覆したいですよ。期待されたこととは違うことをやって、ファンに喜んでもらうことにやりがいを感じます。お客さんの「これをやってほしいな」という予想通りのことをやっちゃうと、そこまでだと思う。感動の本質は誰も予測していないところから生まれるんです。僕にとっては、実験を表現として捉えることが面白い。人体実験をしているみたいな。日本では、大勢の人の中に安定した収入や生活水準といった価値基準が軸としてある。だから、その反動でハチャメチャなものを求めたくなる。そのハチャメチャな何かがサニーデイ・サービス。アンチ堅実で、常に実験を繰り返して、自分たちでも是非がわからないものをファンに投げかけている。「こいつら無茶やってるけど、楽しんでるな」と思われたいんです。

ーー『the CITY』の制作においてのこだわりはありますか?

曽我部:例えば20年前なら「いいメロディが作れた」から曲を作る、みたいな作り方をしていたんです。だけど今はもっと、ひらめきや目新しさが中心になってきました。できた曲をいじって壊したものを新しい曲として作り込んでいくとか。自分がいいと思っている音楽性やメロディは、「人にとってなんぼのもんじゃい」って感じる時もありますし。僕自身には大切でかけがえのないものだけど、それだけを主張し続けても、今の世の中の力に本当になっているのかなと。自分が大事だと思って守ってきた世界から飛び出していく瞬間を人に見せてあげることが、今の僕は大切だと思っています。

ーー簡単にシャッフルやスキップできるのがストリーミングだと思うのですが、『the CITY』はアルバムとして最初から終わりまで何度も聴き直したんです。普段は配信サービスばかり使っていますが、そんな聴き方は久々にしたように感じました。

曽我部:それはうれしい。音楽的に優れているか、そうでないかは僕にとって重要じゃない。お客さんが一歩踏み込んでくれるかどうかが重要だと思う。今後の音楽シーン全体がそうなってくれたなら、僕はうれしいな。

ーーここまで『the CITY』の話を伺ってきましたが、日本のオルタナティブシーンをどうご覧になっているかお聞きしたいです。

曽我部:まず始めに、音楽大企業のアプローチはCDが売れていた時代と今とあまり大差はないと思っています。だから、メジャーがアーティストにとって理想郷として存在することには今でも違和感を感じるんです。世界を見ると、アメリカだってどの国だってオルタナティブな音楽シーンがしっかりと根付いて強く存在しています。特に今の時代、メインストリームとオルタナティブが混じり合う必要性や統一感はそんなに感じていない。でも、日本は音楽シーン全体を共通の業界ルールが縛っている傾向やイメージが強い。オルタナティブな音楽活動をしているアーティストたちが、「ラジオ局を始めましょう」という活動は起こしにくいでしょ。だから僕は日本でオルタナティブな音楽シーンがしっかりと強固になっていく必要があると思う。

ーー曽我部さんご自身も作曲からレーベル運営まで独自の道を進んでいらっしゃいますが、何に一番インスパイアされてきましたか?

曽我部:もともとはパンクロックのDIY精神に影響を受けてきました。アメリカのハードコア・パンクバンドは自分たちでレーベルを立ち上げて、みんなでカセットやシングルを作ったり、お互いが一緒にツアーをやったりすることで、アーティスト同士や地域別のファンコミュニティが強固になっていった。そういうアプローチを見ていると、ビジネスの専門家に丸投げしなくても、日本人の僕たちもある程度のレベルまで自立できるとは考えています。

ーー『Popcorn Ballads』に続いて『the CITY』を配信リリースすることで、日本のオルタナティブシーンに影響を与えてくれそうに感じます。

曽我部:2004年に自分のレーベル<ROSE RECORDS>を始めた時、ソロシンガーのインディーズレーベルなんて難しいとよく言われたんです。当時はそういう時代でしたけど、今は別に僕のようなアーティストがレーベルを立ち上げることは、そんなに変じゃないですよね。時代ってそういうものじゃないですか? すぐに環境が変わるとかフォロワーが生まれるわけでは無いけれど、お互いが影響し合って、誰かの活動のアイデアになればいい。今すぐ変えるために音楽をやっているわけじゃないから。配信限定でのリリースもその一環で、いろいろなことを日本の誰よりも早くやっておきたいなって“ミーハー精神”は今でもありますよ。

(取材・文=ジェイ・コウガミ)

      

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