米楽器メーカー ギブソンが倒産する可能性は? ギターを取り巻く音楽業界の“今”を読み解く

ギターを取り巻く音楽業界の“今”

フェンダーのギター学習システムと国内企業の音楽教育

 先述の動画とインタビューでムーニー氏が語っているが、独自の市場調査により「ギター購入者の45%が初心者であり、そのうちの90%が1年後には挫折している。残った10%の人々はのちに平均7本のギターと複数のアンプを所有する」ことがわかったフェンダーは、2017年に初心者のプレイヤーを対象としたオンラインギター学習システム「Fender Play」をスタートさせた(2018年4月現在、アメリカ、イギリス、カナダ、英語圏のみ)。受講者個々の要望に沿ってカスタマイズされたカリキュラムが提供されることが特徴である。ベースとなっているのは南カリフォルニア大学ソーントン音楽大学やミュージシャンズ・インスティテュート(MI)でも使用される音楽教材で、教育機関のPhD(ドクター・オブ・フィロソフィー、英語圏で授与されている博士水準の学位)インストラクターによる独自の監修が行われている本格的なものだ。さらに、The Rolling StonesやZZ Top、Stone Temple Pilotsからキャリー・アンダーウッドまで、数多くの有名アーティストの楽曲を通して学べることも大きな魅力である。レコード会社や音楽出版社、マネジメント、分け隔てなく、いち楽器メーカーがアーティストの協力と楽曲使用許諾を得られていることは、ギター業界のリーディングカンパニー、フェンダーだからこそ成し得たものだろう。

What is Fender Play? | Fender Play™ | Fender

 少し形は違うが、国内でも古くから演奏、音楽教育に力を入れている楽器メーカーがある。株式会社イーエスピー(ESP Co.Ltd、Electric Sound Products)だ。80年代のジャパメタブーム、90年代のヴィジュアル系ブームを筆頭に、アーティストモデルブームの火付け役であり、オーダーメイドギターのパイオニアである同社の教育事業は楽器製造スタッフの育成にはじまり、シーンを賑わすアーティストを数多く輩出するほどまでに成長した。アメリカのミュージシャンズ・インスティテュートの日本分校として1995年に開校した「音楽学校 MI JAPAN」が今年4月より認可校「専門学校ミュージシャンズ・インスティテュート東京」となった意味は大きく、学校法人イーエスピー学園を軸にグループの中核を成す教育事業をより強固なものとした。

 また、国内楽器店売上高トップ、世界第6位(2015年)を誇る島村楽器株式会社は、楽器販売のみならず独自の音楽教室事業においても急成長した企業だ。郊外大型ショッピングセンターでの全国展開とともに地域に密着した音楽教室を併設。「ミュージックサロン」と呼ばれるそのスタイルは、決まった日時に開催される複数受講者を対象とした従来の音楽教室ではなく、インストラクターを常駐させることによって、受講者の都合で好きな時間に個別レッスンが受けられるという画期的なものであった。ギターに限ったものではないが、楽器を売るだけにとどまらないそのスタイルは、フェンダーがたどり着いた楽器購入者の動向を、小売店だからこそいち早く気づいていたのかもしれない。

 こうした事例を見ると、製造や販売だけにとどまらず、演奏する楽しさを提唱することがユーザーのニーズであり、さらなる販売促進にも繋がっていることがわかる。ギブソンの掲げたものとは少し異なるが、これもまた一つの音楽ライフスタイルである。

時代を象徴するギターヒーロー

 そしてもうひとつ、ユーザーが求めるもの、それは憧れのギターヒーローだ。

 60年代半ばにフェンダーは、人気が低迷していたストラトキャスターの製造中止を検討していた。しかし、そんなストラトキャスターを抱えてデビューしたのが、ジミ・ヘンドリックスだった。その姿を見て、エリック・クラプトンやジェフ・ベックはメインギターをストラトキャスターに持ちかえた。

 70年代末に登場したエドワード・ヴァン・ヘイレンのド派手なペイントが施されたギターは、フロイド・ローズ(Floyd Rose)という新しいトレモロ・システムを搭載し、コンポーネントギターブームを巻き起こした。そんな中、古めかしく茶色いサンバーストカラーのギブソン・レスポールを思いっきり低く構えて登場したのは、Guns N' Rosesのスラッシュだった。

 そう、エレクトリックギターの歴史は時代を象徴するギタリストとともにあったのだ。イングヴェイ・マルムスティーンにジム・ルート(Slipknot)、ジョン・メイヤーにブラッド・ペイズリー……フェンダーはその時代とともに多くのギターヒーローたちとパートナーシップを結んできた。近年では80年代より海外での評価も高かった日本製モデル“Japan Exclusive”シリーズと、Ken(L’Arc~en~Ciel)、MIYAVI、SCANDALといった、いま海外から注目されている日本のアーティストを結び付けることによって、新たなマーケティングを開拓しようとしている。それに比べると、近年のギブソンは時代を表すようなギターヒーローが少ないようにも感じてしまう。そうした中で昨年、スラッシュがギブソンの初代グローバル・ブランド・アンバサダーに就任した。ギブソンに新しい息吹をもたらすようなギターヒーローの登場も期待したいところだ。

 2018年3月20日、オンキヨーは、ギブソンの保有していたオンキヨー株式が売却され、保有割合が発行済株式総数の0.00%(3,600株)となったことを確認したと発表した。ギブソン社の運命は負債の返済期限を迎える今年8月までにはっきりするが、少なくともギターブランド“Gibson”がなくなることなど、誰も望んではいないはずだ。

■冬将軍
音楽専門学校での新人開発、音楽事務所で制作ディレクター、A&R、マネジメント、レーベル運営などを経る。ブログtwitter

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