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70年代後半のアメリカ西海岸のアンダーグラウンド・シーンは、ロンドンやニューヨークに比べるとメディアに乗る機会も少なく、日本でもあまり知られることがなかったが、このクロームこそはかの地が生んだ最大のカルト・バンドのひとつと言えるだろう。
ダモン・エッジ(vo)とヘリオス・クリードら4人によって77年、サンフランシスコで結成されたクロームは、当初はセックス・ピストルズやストゥージズに触発されたパンクだったが、すぐにテープ・マシンやシンセサイザーを導入したサイケデリックかつノイジーな展開に進む。77年リリースされた2nd『エイリアン・サウンドトラックス』で個性を確立、そして次作『ハーフ・マシーン・リップ・ムーヴス』(79年)で、足早に頂点に達する。
サイケデリック、ノイズ/インダストリアル、エレクトロニクス、ハードコアといった要素がマグマのようにドロドロと渦巻くサウンドは、楽観的で明るいウエストコーストのイメージを真っ黒に塗りつぶしていくような暗い狂気と悪意と暴力に満ちていた。彼らのあらわすサイケデリックとは陶酔や快楽や幻想ではなく、バッド・トリップであり、悪夢であり、ドラッグが切れたあとの地獄のような禁断症状そのものだった。それが彼らの音楽にただの絵空事ではなく、人間存在の根源に肉薄するようなリアルな手触りをもたらした。それは80年代半ば以降のアメリカン・オルタナティヴの隆起にたやすく結びつく。彼らの空けた風穴から、ビッグ・ブラックやプッシー・ガロアといったノイズ/ジャンク、またミニストリーやヘルメットなどのインダストリアルという、80年代半ば以降のアメリカのアンダーグラウンド・シーンの2大潮流を形作った連中が飛び出していったと言えるだろう。ソロになったヘリオス・クリードが参加し、ヘルメットなどを輩出して90年代アメリカン・アンダーグラウンドの暗黒面を代表するミネアポリスの個性派インディ・レーベル、アンフェタミン・レプタイルは、クロームの存在なくしては絶対ありえなかった。
クロームは現在もなおダモン・エッジを中心に存続中であり、脱退したヘリオス・クリードはソロとして何枚も異様な傑作を出しているが、やはりクローム初期の衝撃には及ばない。 (小野島 大)