『どこよりも遠い場所にいる君へ』若手ライター座談会 “青春アニメ”の現在地を読み解く

『どこきみ』若手ライター座談会

SNSから離れても、“つながり”からは逃れられない

徳田:『どこきみ』の興味深い設定として和希と七緒がどちらもスマホを持っていないという点があります。現代社会を舞台にした作品ではスマホを持っていないということそれ自体がややファンタジックな設定になりますが、それをあえて2026年に見る意味、という点も語りがいのある部分かなとも思います。

クコ:僕は『どこきみ』も案外オンラインの描写はあったと思っていて。例えば和希のルームメイトたちが高津の家に行ったシーンでは、彼の名前を検索したことで高津が芸術家であることが判明します。和希くんの父親についてもそうでしたよね。検索したらバレてしまうという意味では、やはりオフライン一辺倒の作品ではなかったのかなと感じました。

舞風:インターネットからの逃れられなさは僕も感じましたね。割と普段からスマホをいじりがちですが、実のところ僕はのんびりとしているほうが好きで、必ずしもスマホが大好きというわけでもないんですよ。ただそうすると仕事もなくなるしアニメも観られなくなってしまうので、困ることのほうが大きい(笑)。そういう意味で逃れられないんだけどほんとうは逃げ出したいんだ、みたいな欲望はわかる部分もあります。

徳田:5〜6年前だったら「スマホから距離を置け」みたいなことは情報社会論としていわれていたと思いますが、今では「SNS疲れ」というような言葉が一般的になりつつありますよね。「ドパガキ」なんて言葉もありますけど、あれも「ドパガキはよくない」という前提が一般的になっているからギャグとして成り立っているわけで。本当はインターネット、とりわけSNSと距離を置きたいという感覚はある程度多くの人に共有されていると思います。

舞風:僕はそういう意味で言うと、七緒が1974年からやってきた、という時代設定にも注目したいんです。1974年といえば第一次石油危機の影響で高度経済成長期が終わったころです。アニメでは『宇宙戦艦ヤマト』がヒット、マンガでいうと「花の24年組」が有名になりつつあるころだと思うんですね。そして批評的には、大澤真幸が言っている時代区分の「虚構の時代」に入って少ししたころです。そういう視点からだと、二人の逃避したいものとして「現実」がある、という立場は一致しているようにも見える。その象徴として和希はスマホを持っていなかったようにも思います。もちろん、それでも逃れられないよね、というのが『どこきみ』の立場なのですが……。

徳田:丹渡さんは最近あまりX(旧Twitter)のタイムラインに浮上していないと思いますがいかがですか?

丹渡:私はSNSを完全に卒業したという感じではなくて、XやInstagramの「不特定多数とつながる」みたいなSNSがやりたくなくてやめたんですよ。ただ、代わりにいま「setlog」をめちゃくちゃやるようになっちゃいました(笑)。setlogって共有できる人が限られているので、Xとか Instagramみたいな全世界への発信ではなくて、特定の数人というクローズドな宛先があるんです。私がデジタルネイティブ世代だからというのはあると思うんですが、そういう意味では最後の手紙を読むシーンがすごくよかった。芥川賞作家の滝口悠生が、「文体」という言葉について、「文体とは宛先である」と言い切った文章があるんです(※)。その言葉がすごく好きで、それを読んでから「ああそうか、あらゆるものは宛先なんだ」って思うようになったんですね。自分が文章を書くのが好きだからこそ、七緒ちゃんのように「文体」が定まっている……つまり未来の、時間も人も決まった一点に向けてものを書ける姿勢が強くていいなと思います。

舞風:それでいうと、OPの映像で最後に年老いた七緒ちゃんが手紙を書いているカットがインサートされているのが好きでした。そこで物語のはじめとおわりがつながっていく感じがしましたね。

徳田:スタッフクレジットが手紙で表されていたのも良かったですね。

クコ:僕もOPは良かったと思います。曲を歌っているのがとたさんだったじゃないですか。最近では山田尚子の映像に合わせて『アン・シャーリー』のOPを担当していましたが、そちらのほうでは世界の美しさを素朴に歌い上げていたんですね。一方で『どこきみ』では結構感情を乗せて歌っていたと思っていて。「あ、こういう歌もいけるんだ」という新しい一面が見られて、嬉しい映画だったなというふうに感じました。

『どこきみ』は「映画館で上映される」ことに意味がある

徳田:若手ライターの皆さんと『どこきみ』について語り合う、という企画でしたが、僕自身若手といいつつも少し年上ということもあり、話していくうちにフレッシュな気分を思い出すことができました。最後に一人ずつ、『どこきみ』の魅力を聞いていければと思います。個人的には1974年が“まったくアクセスできない大昔”みたいな扱いをされていたのは興味深いと思いました。僕もぜんぜん生まれていないとはいえ、『宇宙戦艦ヤマト』からアニメブームがあって……というふうに時代を下ればある程度現代と地続きに捉えられるのですが、和希くらいの年齢の子にとってはそうでもないのかもしれない。

クコ:個人的には、ロングショットのロケーションがかなり良かったなと思っています。病院の待合室の俯瞰カットとか、屋上で配管越しに和希くんと仁科先生を撮るカットとか。そういう映像として好みだったカットが序盤に多くて、ストーリーやキャラクターの感情がノッてくるまでも、見応えのある作品だと思いました。

丹渡:『どこきみ』は、「映画館で上映される」ということも大事な要素だと思っています。映画は誰と観るか・どこで観るかが付加価値としてある媒体なので。1人で観るのももちろんいいとは思うのですが、特に『どこきみ』は誰かと観ることでいい思い出ができるようにも思います。普段アニメ映画を観ていない方でも楽しめる作品だと思うので、ぜひ誰かを誘って観に行ってみてほしいです。

舞風:僕は個人的にコミカルなシーンのテンポがよくてすごく好きでした。特に、七緒が仁科先生にまくしたてるシーンがすごくよかった。途中で高津に羽交い絞めにされて連れていかれるのがかわいかったです(笑)。

徳田:いかにも永瀬アンナさんが演じそうなキャラの演技だなと思って僕も好きです。

舞風:ときどきコミカルな部分だったり昭和っぽい部分が出つつも、最後にはとても凛々しい。そういう七緒の魅力を存分に楽しめる作品でした。あと、本編と予告を観比べてみるとじつは新しい発見があったりします。その違いの意味を考えてみるのもおもしろいんじゃないかと思います。

参照
※ https://kangaeruhito.jp/article/5977

■公開情報
『どこよりも遠い場所にいる君へ』
10月9日(金)全国公開
出演:石橋陽彩、永瀬アンナ、土屋神葉、上坂すみれ、羽多野渉、岡本信彦、松岡禎丞、藤木直人(友情出演)、玉木宏
原作:阿部暁子『どこよりも遠い場所にいる君へ』(集英社オレンジ文庫)
監督:和田純一
脚本:桑村さや香
キャラクターデザイン・総作画監督:へちま
制作:トムス・エンタテインメント/第6スタジオ
音楽:中村弘二
主題歌:とた「オリーブ」(RECA Records)
劇中歌:とた「鳳仙花」(RECA Records)
配給:松竹
製作幹事:松竹、ポニーキャニオン
©阿部暁子/集英社・『どこよりも遠い場所にいる君へ』製作委員会
公式サイト:https://sh-anime.shochiku.co.jp/dokokimi-movie/
公式X(旧Twitter):@dokokimi_movie
公式TikTok:@dokokimi_movie

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