『風、薫る』はミュージカル&舞台俳優の宝庫? 中村倫也、内田慈、甲斐翔真らの活躍

 NHK連続テレビ小説『風、薫る』もいよいよ最終盤。本作の大きな魅力の一つとして挙げたいのが、舞台やミュージカルで鍛え上げられた俳優陣の存在感だ。

 第113話で中村倫也演じる内務省衛生局の役人・柳生藤次が再登場すると、すぐさまSNSで話題になった。第92話で初登場した柳生は、新潟の村で赤痢が発生したという情報を得て東京から調査に訪れ、自らも罹患。「ミイラ取りがミイラになる」とは、まさにこの状況のこと。赤痢の恐ろしさはもちろん、医療体制も整っていないシチュエーションだと分かるだけに黒川医師(平埜生成)やりん(見上愛)の救護活動を目の当たりにするまでは絶望を感じていたに違いない。

 赤痢の患者が避病院に次々に運ばれてくる中、りんが廊下の藁の下に横たわっていた柳生を見つけ、亡くなった患者だと思って合掌すると、「まだ生きてる」と耳馴染みの良い美声が響いた。絶望の中に微かに希望が入り混じったような、不思議なほどに達観した声だった。

 中村倫也というと、ドラマや映画など映像での活躍の印象が強いけれど、舞台経験も豊富で、役柄によって発声と所作・仕草を完璧に使い分けて豹変する表現力の高さが広く認められている。2014年に初主演舞台『ヒストリーボーイズ』のアーウィン役で第22回読売演劇大賞優秀男優賞を受賞。2022年にはミュージカル『ルードヴィヒ~Beethoven The Piano~』で主演を務め、ドイツの作曲家ベートーヴェンの音楽への情熱、難聴という苦難、苦しみながらも運命に立ち向かう姿が高い評価を得た。

 2024年の劇団☆新感線のいのうえ歌舞伎『バサラオ』のカイリ役では、歌、殺陣、ダンスと派手で美しいパフォーマンスが観客の心を鷲掴みに。舞台上で凄まじい熱量を発揮し、圧倒的な存在感を示した。

 今回の柳生役は、弱りきった患者として登場し、じつはりんや直美(上坂樹里)の目指す派出看護婦会の将来に深く影響を及ぼす役人だったという振り幅の大きい役柄。それをこんなにもナチュラルに、印象深く演じられるというのは、中村の安定した演技力のなせる技である。

 東京で、役人として派出看護婦会の実態調査を進め、急増する看護婦という存在について「何事も初めのうちは玉石混交になるのは当然のことだ」という認識を持ちつつ、俯瞰して状況を把握し正しい理解を得られるよう動いていたようだ。東京府の調査報告はまとめられ、これまでなかった看護婦規則を作成するに至った。

 看護の専門知識を持ち、トレインドナースの先駆けとなって邁進する立場のりんや直美と、柳生藤次のように「社会全体の利益」から物事を語り、新しい枠組みを作っていこうという役人では物事を捉える視点が違うのは仕方がないこと。ちょっと何を考えているか分からない、でも思わず頼りたくなる魅力的で一筋縄では行かない人物像が視聴者の心をざわつかせ、中村倫也が登場するたびに話題になるのは当然のことかもしれない。

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