『オークストリートの異変』はなぜ“ご都合主義”を恐れないのか? 懐かしさの正体に迫る

なぜ、娯楽映画が「懐かしい」のか

 じっさい、ここ数年のハリウッド映画の潮流において、おおまかに言えば、つぎの三つのカテゴリーが見えてくる。①世界観を拡張し続けるスーパーヒーロー映画やフランチャイズの大作映画、②ポール・トーマス・アンダーソン『ワン・バトル・アフター・アナザー』(2025年)やA24に代表されるような監督の作家性を前面に出したオリジナル作品、③そして近年じわじわ存在感を増しているホラー映画。実際、2025年のワーナー・ブラザースの好調ぶりを分析したとある記事でも、その年のラインナップの健全さを、大衆的な人気を誇るフランチャイズ大作、堅実な予算で作られるホラー、そして作家主導のオリジナル企画への大きな賭け、という三本柱によって説明している(※)。とくに日本の観客にとっては、この分類はより切実だ。というのも、劇場で実際に出会えるハリウッド映画の選択肢は、そもそもアメリカ本国よりもさらに限られているからだ。

 要するに、問題は、これらのどこにも当てはまらない映画が減っていることだ。フランチャイズでも作家の映画でもホラーでもない、気楽に楽しめる、それなりの規模の娯楽映画。本年で言えば、パワハラ上司と部下のコンビによる孤島でのサバイバルを描いたサム・ライミの『HELP/復讐島』がまさにそうだ。かつてハリウッドの屋台骨はこうした「ミドルバジェット」の映画が担っていたが、産業構造や経済システムの変化により、そのカテゴリーはいまやほとんど空白になっている。『オークストリートの異変』が奇妙に懐かしく感じられるのは、監督の狙いと現在のハリウッドの構造的な空白とがちょうど重なりあったからなのだ。本作は、「なんとなく大味で楽しい娯楽大作」を、現代のハリウッドでもう一度成立させようとした試みと言える。

 では、2026年において、ふたたびこうした「娯楽映画」を作ることの意義はどこにあるのか。あらためて考えたいのは、「ご都合主義」とは、良くも悪くも「映画と観客との共犯関係をどう築くか」という問題そのものであることだ。もう少し作品を見てみよう。

荒唐無稽な出来事に直面する

 自宅に籠城するハサウェイとマクレガーが言い争う場面に顕著なように、恐竜の出現によって家族の亀裂はむしろ拡大してゆく。家を抜け出した息子と娘を探すため、夫婦は夜の街に出てゆくのだが、そこで2人は恐竜の大群の移動に遭遇してしまう。2人は見知らぬ車の中に逃げ込み、互いの身体を横にして息を潜め、恐竜の移動をやり過ごす。車の屋根を渡り歩いていく恐竜の足音と激しく揺れる車体が、2人にいっそう恐怖を与えるのだが、注目したいのは、ハサウェイとマクレガーが互いを安心させるように、それぞれの顔を手で包み込む身振りだ。恐竜の出現という荒唐無稽な出来事に対して、2人はただ恐怖の経験を共有することしかできない。

 さらに見逃してはならないのは、ハサウェイとマクレガーが恐竜のセックス(!)を目撃する場面だ。冗談のようなシーンだが、ハサウェイも思わず吹き出し、マクレガーにポーズを取らせ、写真を撮る(前半、隣人の庭に現れた山盛りの恐竜の糞をみて、プラット家が笑いをこらえきれない場面の反復となっている)。つまり重要なのは、荒唐無稽な出来事に直面したとき、人はそれを信じるか信じないかを判断する以前に、恐れおののいたり、思わず笑ってしまったりと、それらをただあるものとして受け取るしかないのだという次元が作中で示されていることである。本作全編を通して、恐竜という存在が、登場人物たちにとって疑われるべき対象としてではなく、ただ逃げ、時に笑うしかない対象として描かれているのは、その証拠だ。

 恐竜という途方もない絵空事を成立させてしまう映画という発明そのものもまた、この「信じるか信じないか以前に、ただ受け取るしかない」という荒唐無稽さを抱えている。『オークストリートの異変』が問いかけているのは、そうした作りものを、われわれがいかにして受け入れることができるかという問題でもある。それは、コロナ禍を経て、戦争とAIと陰謀論が「信じることそのもの」を絶えず揺るがし続けているいまの時代を、われわれがどう生き延びていくかという問いと地続きだ。ややおおげさに聞こえるかもしれないが、ほぼ同時期に公開されたリドリー・スコット監督作『ラスト・サバイバー』を本作の横に置いてみると、このことはより明確になるはずだ。ご都合主義的な物語にノれるかノれないか。それは単に一本の映画への態度であるだけでなく、いま、われわれがこの世界そのものをどう受け止めるかという態度にも関係しているだろう。なぜなら、普通の娯楽映画にこそ最もパワーがみなぎっている、それこそがハリウッド映画の矛盾した魅力でもあるのだから。

参照
※ https://www.thewrap.com/creative-content/movies/2025-studio-box-office-review-warner-bros-disney/

■公開情報
『オークストリートの異変』
全国公開中
出演:アン・ハサウェイ、ユアン・マクレガーほか
監督:デヴィッド・ロバート・ミッチェル
製作:J・J・エイブラムス
配給:東和ピクチャーズ・東宝
©︎2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
公式サイト:https://oak-street.jp/

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