『VIVANT 悪役会議室』はなぜ同時接続12万人を集めたのか “敗者”が生んだ新しい視聴体験

 ドラマの連動企画に先例がないわけではない。2019年の『あなたの番です』(日本テレビ系)は、本編各話の放送後にHuluでスピンオフ『扉の向こう』を配信し、住民たちの裏の顔を小出しにして考察熱を煽った。並走型としては画期的だったが、新撮である以上、撮影費も俳優のスケジュールもかかる。『あさイチ』(NHK総合)の朝ドラ受けも放送直後に感想を口にする装置だが、受け手は作品の外にいる第三者だ。海外では、AMCが『ウォーキング・デッド』の放送当夜に『トーキング・デッド』を並走させ、2011年から2022年まで続けた。本編に寄り添うアフターショーはすでに確立した形式であり、アニメの公式生放送や声優ラジオも長く同じ機能を担ってきた。悪役会議室が新しいのは日本のドラマ界においてであって、コンテンツ産業全体で見ればようやく追いついたと言うべきだろう。

 それでも価値は落ちない。産業の現状を考えればむしろ上がる。制作費が膨らみ、配信の投資回収に追われる現場で、この企画に必要なのはラジオブースと椅子と3人の俳優だけだ。新規の撮影もロケもセットも要らない。それで同時接続12万人に届く。編成にもスポンサーにも説明できる材料が出るうえ、本編を観た人しか楽しめない構造だから、本編とTVerの再生にも人が返っていく。ラジオ局の側にも事情がある。電通の推計で2025年のラジオ広告費は1153億円(※3)。テレビメディアの1兆7556億円には遠く及ばず、各局はradikoやPodcast、YouTubeへの展開に活路を探ってきた。テレビドラマの熱をラジオが受け取り、映像の生配信で結果を出す。一方通行に見えて、双方の弱みを補い合う関係である。ただし、テレビとラジオと配信を同じグループが抱えているから一気通貫で組めたという条件は無視できない。どこにでもできる企画ではない。

 この番組はリアルタイム視聴も作り直している。TVerの追いかけ再生が当たり前になり、誰もが好きな時間に好きな順番で観るようになった。その結果、翌日の職場や学校で昨日の放送の話をする機会は消えた。感想はSNSに散らばり、ネタバレを避けて回る作業だけが残った。悪役会議室は、生配信のチャットとメール投稿によって、その場にいなければ加われない時間をあえて作っている。日曜21時に本編を観て、23時に集まる。かつてテレビが持っていた時間割を、配信の時代に組み直したのだ。しかもここは荒れない。公式が場を持ち、悪役という愛嬌のある人格が受け止めるからだ。『VIVANT』は設定の粗さや装置のチープさを指摘されやすい作品でもある。その指摘を悪役たち自身が代行すると、同じ内容がファンの言葉に変わる。批判の行き場まで公式が用意し、敵対を内輪の笑いに変えた。

 悪役会議室は俳優の側にも作用している。迫田孝也、河内大和、馬場徹は、いずれも舞台と映像で長く実績を積んできた実力派である。それでも連続ドラマの構造では、脇役は退場した時点で仕事が終わり、作品の余熱は主演のもとに集まる。番組は、退場した3人に毎週の出番と主演級の注目を与えている。8月23日に国立代々木競技場第一体育館で開かれた『VIVANT』のイベント(『日曜劇場『VIVANT』PREMIUM SUMMER PARTY』)では、悪役たちがオープニングを任され、来場者を驚かせた。本編で敗れた側が、本編のイベントの入り口に立つ。付随物ではなく作品の一部として扱われている証拠だろう。

 危うさもある。「徹底整理」が必要になるのは、本編の情報量が視聴者の処理能力を超えているからでもある。外部の企画が本編の説明不足を補ってしまえば、本編は単体で立たなくなる。連動企画が親切であるほど作品の自立が怪しくなるという逆説だ。加えて、リアルタイムを前提にすることは、参加できる人を選ぶことでもある。日曜の23時に30分を空けられるのは、翌朝の勤務や家事育児から距離を置ける人だ。生放送の熱が濃くなるほど、後から追う人は蚊帳の外に置かれる。その楽しさを取り戻す仕掛けは、かつてのテレビ体験が誰を置き去りにしていたかも一緒に連れてくる。

 本編から消えた脇役に仕事をつくり、散り散りになった視聴者の感想に居場所を与え、本編に人を返す。この3つを低予算で同時にやってのけた連動企画は、これまでになかった。ただし、この形式が効くのは考察型の作品に限られるだろう。恋愛ドラマやホームドラマの直後に敗者が集まって騒いでも、おそらく回らない。条件つきではあるが、『VIVANT 悪役会議室』は、これからのドラマが参照すべき最初の型になった。

参照
※1. https://www.tbsradio.jp/articles/111648/
※2. https://tver.co.jp/news/20260803.html?utm_source=chatgpt.com
※3. https://www.dentsu.co.jp/knowledge/ad_cost/2025/media2.html?utm_source=chatgpt.com

■放送情報
日曜劇場『VIVANT』第2シーズン
TBS系にて、毎週日曜21:00〜21:54放送
出演:堺雅人、阿部寛、二階堂ふみ、竜星涼、山中崇、Barslkhagva Batbold、Tsaschikher Khatanzorig、富栄ドラム、林原めぐみ(声の出演)、内野謙太、花岡すみれ、本間さえ、二宮和也、井上順、林遣都、内村遥、井上肇、市川猿弥、市川笑三郎、平山祐介、珠城りょう、西山潤、宮下今日子、Tanapak Jongjaiphar、濱田岳、坂東彌十郎、小日向文世、キムラ緑子、松坂桃李
原作・演出・プロデュース:福澤克雄
プロデューサー:飯田和孝
製作著作:TBS
©︎TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/VIVANT_tbs/
公式X(旧Twitter):@TBS_VIVANT
公式Instagram:tbs_vivant
公式TikTok:vivant_tbs

『VIVANT 悪役会議室』
TBSラジオにて、毎週日曜23:00〜23:30放送・配信
出演:山本巧(迫田孝也)、ワニズ(河内大和)、ゴビ(馬場徹)
公式YouTube:https://www.youtube.com/watch?v=WEfO_dnYcLU
公式サイト:https://www.tbsradio.jp/VIVANT-akuyaku/

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