山﨑賢人はなぜ主人公として輝き続けるのか? 唯一無二の“主人公力”が生まれる理由

『ゴールデンカムイ』で極まった身体表現

『ゴールデンカムイ 網走監獄襲撃編』©野田サトル/集英社 ©2026 映画「ゴールデンカムイ」製作委員会

 そのことをさらに印象づけたのが、2024年の『ゴールデンカムイ』である。山﨑が演じた杉元佐一は、日露戦争を生き抜いた元兵士。「不死身の杉元」と呼ばれるほどの生命力と戦闘能力を持つ。当然、現代の青年を演じるときとは異なる身体が求められる。

 山﨑は杉元を演じるために約10キロ増量し、空手や武道をベースとしたトレーニングや軍事訓練に取り組んだ。さらに、模擬銃を使い、銃を扱う動きを身体に馴染ませる練習も行っている。

 信と杉元は、どちらも激しいアクションを見せる主人公だ。しかし、同じ身体で演じればいいわけではない。信は、これから大将軍を目指す少年。杉元は、すでに戦場を経験した兵士。同じ「戦う主人公」でも、その人物が歩んできた人生が違えば、身体のあり方も変わる。漫画のキャラクターは、一枚の絵のなかで完成している。しかし実写では、その人物が歩き、走り、食事をし、戦い、誰かと話さなければならない。つまり、キャラクターを「絵」から「身体」へ変換する必要がある。

 山﨑が徹底しているのは、まさにこの変換なのではないだろうか。

“主演・山﨑賢人”に期待が集まる理由

『キングダム 魂の決戦』©︎原泰久/集英社 ©︎2026映画「キングダム」製作委員会

 ここまでの作品を時代順に並べてみると、山﨑賢人のキャリアには一つの明確なグラデーションが見えてくる。少女漫画の「王子様」から、『斉木楠雄のΨ難』では超能力を持つ高校生、『四月は君の嘘』では天才ピアニスト、『キングダム』では天下の大将軍を目指す少年、『ゴールデンカムイ』では戦場を生き抜いた元兵士へ。演じてきた人物は大きく異なるが、すべての作品で物語の中心に立ち、作品ごとに異なる主人公の魅力を成立させてきた。

 ここで、俳優の「主人公の作り方」の違いに目を向けてみたい。

 木村拓哉を考えてみると、どうだろうか。木村には、長年にわたって築き上げてきた圧倒的なスター性がある。立ち姿、声、表情、身のこなし、そして「木村拓哉」という名前そのものが、観客に一つの人物像を想起させる。その強い存在感が役に重なることで、「木村拓哉だからこそ成立する主人公」が生まれる。これは木村拓哉という俳優の大きな魅力である。役のなかに本人のスター性が入ることで、その人物にしかない華やかさや説得力が生まれる。

 竹内涼真にも、長身でスポーティーな身体性や爽やかさ、明るさといった本人の魅力がある。阿部寛には独特の声や長身、圧倒的な存在感があり、佐藤健には身体能力や繊細な表情、クールな佇まいがある。それぞれの俳優には、それぞれの「主人公の形」がある。

 では、山﨑賢人の場合はどうだろう。山﨑にも、もちろん華やかな容姿やスターとしての存在感がある。しかし、その魅力を一つの形に固定していない。

 「王子様」を求められれば王子様になり、「超能力者」を求められれば斉木になり、ピアニストならピアニストの身体を作り、信なら少年らしい身体を、杉元なら兵士としての身体を作る。つまり山﨑は、自分の個性を役に押し込むのではなく、役にあわせて自分の表現を変えることができ、自分がどう見えるかではなく、「このキャラクターはどう見えるべきなのか」を優先する。

 必要なら身体を変える。必要なら表情を変える。必要ならカッコよさを引き算する。必要なら少年らしさを残す。必要なら戦場を生き抜いた兵士の身体を作る。山﨑賢人は、役を自分に寄せるのではなく、自分を役に寄せていく俳優なのだ。

余白と柔軟性を兼ね備えた、俳優としての“器”

『キングダム 魂の決戦』©︎原泰久/集英社 ©︎2026映画「キングダム」製作委員会

 漫画にはすでに、キャラクターの姿が存在している。読者が積み重ねてきたイメージもある。そのキャラクターを実写の世界へ移すとき、俳優自身の個性を強く打ち出す方法もあれば、俳優自身をキャラクターのために変化させる方法もある。山﨑賢人が得意としているのは、後者なのである。「自分が主人公になる俳優」ではなく、「主人公になるための器になれる俳優」なのだ。だから、演じる役が変わるたびに、山﨑賢人自身の見え方も変わる。

 どんなキャラクターにも、自分を合わせることができる。そのための余白と柔軟性がある。そして、その余白が大きいからこそ、原作キャラクターそのものを受け止められる。それが、山﨑賢人という俳優の「器」なのだと思う。

 自分を消すのではなく、自分の持つ身体性や存在感を、役柄に応じて変化させる。強い個性を持ちながら、その個性を作品ごとに消して別人になるのではなく、原作キャラクターの魅力と重ねあわせていく。ここに、単に「何にでもなれる俳優」とは異なる、山﨑賢人の特徴があるのではないか。

 『L・DK』の久我山柊聖では「王子様」としての華やかさを、『斉木楠雄のΨ難』ではその華やかさをあえて抑えた淡々とした存在感を、『キングダム』では少年らしさと躍動感を、『ゴールデンカムイ』では戦場を生き抜いた男の身体を前面に出す。役が変われば見え方は大きく変わる。しかし、そのどの役にも共通しているのは、画面の中心に立ったときに観客の視線を引きつける「主人公としての存在感」である。

『キングダム 魂の決戦』©︎原泰久/集英社 ©︎2026映画「キングダム」製作委員会

 つまり、山﨑賢人は山﨑賢人自身が持つ華やかさや身体性を残したまま、それを原作キャラクターにあわせて変換することができる。だからこそ、役ごとにまったく違う人物に見えながらも、「山﨑賢人が演じる主人公」として成立する。

 漫画原作の実写化では、原作ファンがすでに持っているキャラクターのイメージと、俳優自身が持つイメージの両方を成立させる必要がある。山﨑賢人は、その二つをどちらか一方に寄せるのではなく、重ね合わせることができる。「原作キャラクターになれること」と「山﨑賢人であること」を両立させられること。それこそが、彼が漫画原作作品の主人公に繰り返し選ばれてきた理由の一つなのではないだろうか。

 その「器の大きさ」こそが、山﨑を現代の漫画原作実写化における稀有な「主人公俳優」にしている。次にどのような作品で、どのような主人公を演じるのか。その行方そのものが、現在の日本映画において山﨑賢人が数多くの大型作品を託されている理由を示すものであり、そうした期待こそが、山﨑賢人という俳優を追い続ける一つの醍醐味となっているのである。

参照
https://realsound.jp/movie/2026/08/post-2489014.html

■公開情報
『キングダム 魂の決戦』
全国公開中
出演:山﨑賢人、吉沢亮、橋本環奈、清野菜名、満島真之介、岡山天音、志尊淳、神尾楓珠、結木滉星、三吉彩花、三山凌輝、山下美月、蒔田彩珠、山田裕貴、坂口憲二、豊川悦司、髙嶋政宏、要潤、加藤雅也、高橋光臣、平山祐介、一ノ瀬ワタル、佐久間由衣、勝矢、坂東彌十郎、橋本さとし、笹野高史、谷田歩、中村蒼、田中圭、斎藤工、玉木宏、佐藤浩市、小栗旬
原作:原泰久『キングダム』(集英社「週刊ヤングジャンプ」連載)
監督:佐藤信介
脚本:黒岩勉、原泰久
音楽:やまだ豊
主題歌:米津玄師「夜鷹」(Sony Music Labels Inc.)
配給:東宝
©︎原泰久/集英社 ©︎2026映画「キングダム」製作委員会
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