『風、薫る』上坂樹里の“ボタンの縫い付け”の名演技 りん×直美のバディはより強固に
NHK連続テレビ小説『風、薫る』第109話の本放送(午前8時から)が休止となり、8月28日に第110話とあわせて立て続けにオンエアとなった。下関条約が締結され日清戦争が終結となるものの、吾郎(甲斐翔真)が台湾での戦闘中に岩場から転落し負傷。後送された広島の陸軍予備病院で多江(生田絵梨花)に看護されるが、脚気により亡くなってしまう。死亡を伝えられた直美(上坂樹里)がそこから再び立ち直っていく姿を映し出す、いつにも増して物語が直結した第22週「明るい未来」の幕を閉じる2話であった。
第110話で印象的なのは、直美の涙とそこからりん(見上愛)のもとへと戻り見せる覚悟に満ちた表情。多江から吾郎の最期の言葉を聞き、一筋の涙が直美の頬を伝う。吾郎が遺したのは、正直で、愛に満ちた直美へのまっすぐな言葉。そして、死を悟っての「会いたかったなぁ」という悔しさに満ちた一言だった。
吾郎は多江に軍服のボタンを託していた。なぜ、同じ箇所のボタンだけが何度も取れかかるのか。それは文句を言いながらでも真剣にボタンを縫い付けてくれる直美が見たくてつい引っ張っていたからだった。イタズラな吾郎の愛情の深さを知っても、“鬼のように”怒る相手はもういない。気持ちの整理ができぬまま、じっとボタンを見つめる直美の手を握り、りんが「つけて、帰ってきて」と言葉をかける。
取れたボタンをもう一度軍服につけることが、吾郎を喜ばせること、夫の弔い、直美自身の心の整理にもなるはず。懸命に針を動かしながらも、涙が込み上げる直美。あの日と同じように、台所から聞こえてくる吾郎が歌う「埴生の宿」。そこには軍服姿で笑っている吾郎がいた。イタズラな笑みを浮かべ、ボタンをちぎって見せる吾郎に、「バカ……!」と直美は泣き笑うが、気づけば吾郎の姿はない。ゆっくりと我に帰り、まるで気持ちを昇華させていくような、吾郎と過ごした日々を抱きしめるような、柔らかな上坂樹里の表情が素晴らしい。
直美が滂沱の涙を流すことができたのは、生まれたばかりの明の面倒を引き受け、直美を一人にさせてくれたりんのおかげでもある。りんと直美の関係が、一方が沈んでいるときはもう一方が照らす“太陽と月”のバディであることは、オンエアが始まる前から様々な場面で見上愛から話されているが、一ノ瀬家へと戻り明を抱きながら「ただいま」とりんに告げる直美のまっすぐな表情を見て、バディとしての絆とシングルマザーとして明を育てていく覚悟と強さを感じさせた。
8月21日におよそ1年にわたる撮影がクランクアップを迎え、放送自体も残り1カ月を切った『風、薫る』。第23週「歩々清風」では、虎太郎(小林虎之介)、寛太(藤原季節)、柳生(中村倫也)、さらに島田(佐野晶哉)が再登場。家族の借金を返済するため浜松に帰郷した島田の空白の数年間と“頼りになりそうな人”として姿を見せる彼の動向に注目だ。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK