『映画ちいかわ』エンディング曲「机さする」から“その後”を考察 隠された“いつか”の意味

 現在、大ヒットを記録している『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』。原作屈指の長編「セイレーン編」を映像化した本作には、迫力あるアクションや壮大な音楽など、映画ならではの表現が随所に盛り込まれている。

 なかでも、観客の間で話題を集めているのが、エンドロールで流れる「机さする」だ。ちいかわ役の青木遥が歌い、ナガノが作詞、トクマルシューゴが作曲を手がけた本楽曲。かわいらしい雰囲気で物語を締めくくる一方、その歌詞は正直なところ、かなり抽象的である。

 「机さする」をめぐっては、ハチワレがキメラ化した未来を描いているという説や、オープニングテーマ「くつずれ」へのアンサーソングとして読む考察など、すでにさまざまな解釈が生まれている。ただ本稿では、この曲をストレートに映画本編の続きとして考えてみたい。

 島から帰ってきたちいかわが、ヒトハとフタバの選択を思い返しながら、隣にいる大切な誰かと1日を過ごしている。そんな歌として読んだとき、そこには何が見えてくるのだろうか。

 まず冒頭で描かれるのは、眠れないまま迎えた朝だ。

〈外を見るともう明るいよね 眠れなかったけどさ頭冴えてる〉
〈そっと見るとまだ眠たいよね もすこし寝てようか おやすみ〉

 最初の一節では、夜を越えて明るくなった外を見つめている。島から戻ったばかりだと考えれば、旅の興奮だけでなく、そこで目にした出来事が頭から離れず、眠れなかったとしても不思議ではない。体は休めていないはずなのに〈頭冴えてる〉のは、ヒトハとフタバのことを考え続けていたからではないか。

 一方、続く〈そっと見ると〉の視線の先には、まだ眠っている誰かがいる。〈もすこし寝てようか おやすみ〉という語りかけからも、この歌がちいかわ1人だけの独白ではなく、隣にいる相手と過ごす時間を描いていることがうかがえる。

 その相手が誰なのかは明示されていない。とはいえ、よくちいかわの家に泊まっていることを踏まえても、オープニングテーマ「くつずれ」を歌ったハチワレを思い浮かべるのが自然だろう。

 では、眠れないちいかわは、1人で何を考えていたのか。その手がかりとなるのが、続く一節である。

〈たとえば鳥 あるいは ねこ〉
〈その中で見てるって思うのも自由〉

 鳥やねこの中から、誰かがこちらを見ていると考えるのも自由。それぞれの視点からでしか知り得ない事実や背景が、きっとある。

 つい観客目線になると忘れてしまいがちだが、ちいかわが知っている情報はあくまで落としたうろこや電池などから推測できる範囲の一部にすぎない。詳しい動機はわからないからこそ、限られた視点から何が正しかったのかを決めつけようとはしない。〈何があったか べつに 聞かないけどね〉という言葉からは、答えが分からないままでも、2人を裁かなかったちいかわの態度が浮かび上がる。

 一方、2番では鳥とねこが、いぬとさかなへ変わる。

〈たとえばいぬ あるいは さかな〉
〈その中で見てるって思うのも自由〉
〈明日は たぶん 起きたとき〉
〈そんなんじゃないんじゃないのかな〉

 ここで語られる〈そんなん〉が何を指しているのかは、歌詞の中では明らかにされていない。

 ただ、直前の「いぬやさかなの中から誰かが見ている」という想像を指しているのだとすれば、今夜感じていることが、明日には変わっていてもいいということなのかもしれない。時間が経てば少し落ち着き、今は分からないものが見えてくることもある。「机さする」には一貫して、分からないものをすぐに決めつけず、時間の流れに預けようとする姿勢が感じられる。

〈覚えてても忘れそうでさ 書いとこ怖いから〉

 だが、時間が気持ちを変えてくれる一方で、今抱いている感情まで薄れてしまうかもしれない。ちいかわは、考えや感情が時間とともに変わっていくことを少し怖がっているようにも見える。それでも、今の自分が大切だと思ったことまで消えてしまわないように、いったん言葉にして残しておく。その行為はこれから先の時間に思い出を託す、2つの約束へとつながっていく。

〈あの花瓶 いつか買ってさ〉
〈飾ろうね 約束〉

「あの花瓶」から思い出されるのは、原作の「ほめられリボン」に登場した花瓶だろう。

 2025年7月、原作者のナガノはようやく草むしり検定5級に合格したちいかわを、ハチワレとうさぎが囲むイラストを投稿した。3人の後ろに置かれた花瓶には、ちいかわ、うさぎ、ハチワレを思わせるピンク、黄色、青の花が飾られている。

 実はその約5年前、2020年10月にも、ほぼ同じ構図のイラストが描かれていた。そこから5年の時を経て、花瓶の中には3人を象徴するような花がそろい、リボンは二重になった。2枚のイラストを見比べると、あの花瓶は時間が経つほど少しずつ豊かになっていく、大切な思い出の象徴のようでもある。

 花瓶そのものはすでにハチワレの手元にあるにも関わらず、それでも〈いつか買ってさ〉と歌うのは、花瓶を実際に買い足すというより、これから増えていくものを一緒に飾れる場所を、今後も作り続けようということではないか。そう考えると〈飾ろうね〉とは、つまり「これから増えていく思い出を、一緒に飾ろう」という約束と読むことができる。

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