『風、薫る』りんはなぜ共感されにくい? 視聴者の賛否を分ける“鈍感”ヒロイン像

 りんは看護婦養成所に入学してからも、ナイチンゲールの著書に出てくる「observe」にぴったり合う「観察する」という訳語を島田から得たり、実習先の帝都医科大学附属病院で侯爵夫人・千佳子(仲間由紀恵)の看護を任され、頑なだった彼女の心を開いたことで、手術介助にも抜擢されたりと、なんだかんだで上手くいく。りん自身が努力の末に道が開かれるというよりは、運の強さばかりが目立っている印象だ。強硬手段で捨松に接近し、鹿鳴館の給仕にしてもらったり、病院でも教授に根回しして、自分たちの意見を通りやすくしたりと、ずる賢くも自分の力で道を切り開いていく直美に比べると応援したいという気持ちが半減してしまうのではないか。それなのに、劇中では、「器用なりんと不器用な直美」「優しくて患者にも好かれているりんと、誰に対しても手厳しく患者に怖がられている直美」といったように、りんを上げて直美をような下げる描写が多いので、余計に反発が生まれるのかもしれない。

 また、母親であるという要素が生かしきれていない印象も。養成所時代は寮生活で週に一度しか家に帰れず、正式に看護婦となってからも多忙につき家を空けることが多いりん。その間、環の面倒を見ているのは美津や妹の安(早坂美海)だ。特に安は環を可愛がっており、環も安に懐いている。かつて工場で働いていた直美の同僚に赤子を抱えた母親がいたが、その必要もなく、安心して仕事に打ち込めるりんは恵まれていると言わざるを得ない。せっかくなら、もう少し仕事と子育ての両立の難しさが描かれていれば、視聴者から共感を得られたように思う。『虎に翼』では、順調にキャリアを積む一方で、娘の寂しさに気づけなかった寅子が家族から咎められる場面もあったが、今後、そういう描写があるのだろうか。

 りんは素直で優しい心の持ち主だが、恋愛のことだけに限らず、全体的に人の気持ちに鈍感なところがある。そのため、何度も間違えるが、そのたびに「間違えた」と自分で気づいて反省するところは彼女の美点だ。ただ、信右衛門を助けられなかったことを除けば、彼女自身、何か大きな代償を負ってきたわけではない。おそらくはここから、今まで順調だったりんに数々の試練が降りかかってくるのだろう。その一つが、後輩の育成だ。看護科の生徒たちに加え、看病婦のツヤ(東野絢香)に頼まれて彼女にも看護を教えることになったりん。だが、仕事の傍ら勉強に励んでいたツヤは無理が祟り、体調を崩してしまう。「何か問題があれば、私が責任を持ちます」と多田(筒井道隆)に宣言し、ツヤに看護科の授業を受けられるようにしてもらったりんだが、果たしてどうなることか。誰かに頼りっぱなしではなく、自分の力で困難を乗り越え、周りを支えられるようになる。そんなりんの成長物語に期待したい。

■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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