『田鎖ブラザーズ』“知りたくなかった”衝撃の真実 もっちゃんと兄弟をめぐる悲しい因縁

『田鎖ブラザーズ』“知りたくなかった”真実

 この物語が残酷なのは、もっちゃんを単なる「悪人」として終わらせてくれないところ。彼の人間性を知っている兄弟は、この30年という日々が十分にもっちゃんを苦しめてきたことを想像したはずだ。厨房に背が届かないくらい小さな頃から、稔はもっちゃんといろんな話をしてきた。でも、本当に話したいことは話せなかった。どんなに愛しくて、どんなに信頼している兄弟にも、自分が何に苦しんできたのかを明かせない。それこそが、彼の罪に対する最大の罰だったとさえ思えた。

 銭湯のお湯ですべて流れてくれたらと思わずにはいられなかった。もっちゃんが犯した罪も、兄弟が噛み締めてきた寂しさも、そして3人のなかにあるどうしようもない感情も……。

 一方で、もっちゃんが罪を犯した背景には、追い詰められた人間が、さらに弱い立場へと押し込められていく構造も見えてくる。『田鎖ブラザーズ』ではたびたび、働く術を持たない人たちが登場してきた。第8話でも「おっさん、働けよ」と真が吐き捨てるシーンがあった。晴子(井川遥)の店に出入りし、津田の部屋を物色したあの男もそうだ。そんな彼らは、もしかしたら立ち退きで店を失った世界線のもっちゃんの未来だったかもしれない。

 働きたくても、働けない。他になりたい仕事があるのではなく、できる仕事はこれしかない。そういう人たちが世の中にはたくさんいる。そして、自分に残された選択肢が少ないと思い込まされたとき、人は“そうするしかない”という危うい覚悟に追い込まれてしまうことがある。

 本来であれば、そうした人たちのセーフティネットとして役所の福祉窓口があるのだが、この物語では、そこに新たな闇へと引き込む秦野小夜子(渡辺真起子)の存在が描かれているから、なんとも不条理だ。

 もっちゃんに、本当の意味で頼れる人がいなかったこと。それが、この不幸の始まりだったように思う。そして、もっちゃんはまた誰にも頼ることなく、自ら命を絶つことで「みんなの幸せ」を目指そうとしたのだろう。“そうするしかない”と。自分の将来を案ずる母・カル(三谷侑未)が、これ以上苦労をしなくていいように。自ら手を下そうとしていたほど犯人を憎んでいた兄弟が、これ以上その憎しみに苦しまなくていいように。でも、どう考えても、これが唯一の道だったとは思えない。どうしたら、本当の意味で「みんなの幸せ」が実現できたのか、と考えずにはいられない。

 「知らないほうが幸せなことがある」というのは、ともすれば、考えずに済むということなのかもしれない。果たして、そうだろうか。そうせざるを得ない状況に追い込まれた人が罪を犯したり、それを隠し続けたりすることで成り立つ幸せは、本当に幸せと言えるのか。その問いは、いま私たちが立っている社会もまた、誰かの犠牲と沈黙の上に成り立っているのではないかという不安へとつながっていく。

■放送情報
金曜ドラマ『田鎖ブラザーズ』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54放送
出演:岡田将生、染谷将太、中条あやみ、宮近海斗、和田正人、飯尾和樹(ずん)、長江英和、山中崇、仙道敦子、井川遥、岸谷五朗
脚本:渡辺啓
音楽:富貴晴美
主題歌:森山直太朗「愛々」(ユニバーサル ミュージック)
演出:山本剛義、坂上卓哉、川口結
プロデュース:新井順子
撮影監督:宗賢次郎
編成:高柳健人、吉藤芽衣
製作:TBSスパークル、TBS
©TBSスパークル/TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/TAGUSARI_bros/
公式X(旧Twitter):@tagusari_tbs
公式Instagram:tagusari_tbs
公式TikTok:@tagusari_tbs

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「リキャップ」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる