『塔の上のラプンツェル』共同監督が描く“分断と受容” 『プークーと魔法の植物』の真価
外部からやってくるツォーを拒絶することは、その存在自体への排除のみならず、外側から流れ込むはずの新しい文化や多様な考え方、他者との相互理解の芽を摘み取ってしまうことと同義だといえよう。現実の世界には、本作に登場する、自分の身体を変化させ、手軽に元に戻れるような便利な植物は、もちろん存在しない。しかし、もしそうした体験を、あらゆる人がしたとしたら、お互いへの偏見は少なくなるだろう。
アメリカでは、成長するにつれて自国への誇りを重んじる愛国的な教育がおこなわれるが、初等教育においてはまず「世界は一つ」だとして、あらゆる人々が手を結び、慈しみ合うことの重要性を教える。それはまさに、ディズニーのアトラクション「イッツ・ア・スモールワールド」が掲げる理想主義そのものだ。本作が描く、「スワップ(交換)」を通じた体験は、まずベースとなるべき根源的な倫理観へと、観客を立ち返らせるのである。
劇中で、プークーの食料がジャヴァンに奪われているという前提と、それを異なる視点から見ることで認識が変わってくるという趣向は、そうした一方的な見方で共同体の利益を考えることは、逆に全体を沈ませていく貧しい見方であると、本作の物語は語っている。利益が奪われていると声高に主張する者たちは、外部の者たちによって生活が豊かになっていることには言及しないのである。
このような描写は、近年ではありきたりな正論だと思われたり、ことさら言うまでもないような使い古された表現だと捉えられるかもしれない。しかし、現在のアメリカ映画界を取り巻く状況を見れば、そうも言ってはいられない現実がある。近年、ディズニーをはじめとするハリウッドの大手スタジオは、DEI(多様性・公平性・包括性)を推進する表現を積極的に取り入れてきた。それは作品をより広い層へ届けるためのグローバルな販売戦略であると同時に、制作現場そのものに多様な人種や性的指向を持つスタッフが実際に存在し、活躍しているという前提に基づいている。
しかし、そうした世の中の前進に反発する人々や、それを煽動する一部の政治家たちが「反DEI」を唱え、多様性の表現を政治的な陰謀であるかのように喧伝する事態が起きている。その結果、ディズニーなどの巨大企業であっても、反発を避けるため一部の方針転換を示唆する声明を出すなど、政治的な揺り戻しの波に直面している。今後、子ども向けのアニメーション作品においてすら、こうした分断の影響が影を落としかねない状況にある。そういう意味では、分断への抵抗と他者への共感を、真正面から寓話として描くようなアニメーションは、今後貴重なものとなる可能性もあるのだ。
スカイダンス・アニメーションは新興スタジオであるがゆえに、当初はクオリティの面で課題を残していた。スペインのスタジオを母体とした製作体制で製作された最初の長編アニメーション作品『ラック~幸運をさがす旅~』(2022年)では、そのCGの質感が“プラスチック感”と揶揄されることもあった。
しかし、本作のヴィジュアルは、そうした批判を見事に乗り越えるものになっている。今回、『塔の上のラプンツェル』を手がけたネイサン・グレノ監督が、テンポの良いバディものとして本作をまとめ上げたように、今後もエンターテインメントとして確かなクオリティの作品を提供し続けることが予想される。
スカイダンス・アニメーションは、2023年にAppleとの提携を終了し、新たにNetflixと共同で製作を進めている。今後は、人気監督ブラッド・バードの『レイ・ガン』を控え、『ザ・シンプソンズ』や『シュガー・ラッシュ』(2012年)で知られる、リッチ・ムーアとの独占契約で作品を発表する予定があるなど、アニメーション界における一大勢力としての今後の活躍が期待されている。そうしたアニメーションは、この変容し続ける世の中で、近い将来、果たしてどのように受容されていくのだろうか。
■配信情報
『プークーと魔法の植物』
Netflixにて配信中
出演:マイケル・B・ジョーダン、ジュノー・テンプル、トレイシー・モーガン、セドリック・ジ・エンターテイナー、ジャスティナ・マシャド、アンビカ・モッド、ロリー・アデフォーぺ
監督:ネイサン・グレノ
Skydance Animation/Netflix © 2026