ウォン・カーウァイ作品はなぜ求められ続けるのか 4Kで蘇る『花様年華』の奇跡の引力
それでも、ウォン・カーウァイは「あのころの香港」をどんなに魅力的に描き出しても、単純に美化はしない。そこに暮らした人々にとって、それはユートピアではないからだ。誰もが「ここではないどこか」を夢見て、そこから脱出する機会をうかがっている。『花様年華』の不幸な主人公たちもそうだし、ウォン・カーウァイの出世作にして最高傑作の呼び声も高い『欲望の翼』(1990年)からして、その特徴は顕著だ。
絢爛豪華なバブル期の上海を舞台にした『繁花』にしても、唖然とするほどゴージャスな映像に対して、登場人物たちはまるで薄氷を踏むように、繁栄に足元をすくわれぬよう用心深く生きている。人間はどんな時代や場所においても決して満足しない生き物だ、という真理を訴えているようにも見えるが、それは我々現代の観客に向けたメッセージでもあるだろう。
止まることなく過ぎ去っていく時の流れと、そのなかで置き去りにされる人間存在の儚さも、ウォン・カーウァイ作品の重要なテーマである。それを明確に指し示すのが「時計」というモチーフであり、『欲望の翼』にも『花様年華』にも印象的に登場するトレードマークだ。アクション大作として企画されたはずの『グランドマスター』(2013年)にも、時の流れというテーマは残酷さを伴って、くっきりと刻まれている。
『花様年華』は、それらの要素を最も口当たりよく、繊細な手つきで定着させたフィルムといえるだろう。幾多の製作トラブルに見舞われながら(自業自得といっていい状況も多々あったにせよ)、アドリブ的に作品をまとめていく独自の方法論は、おそらく『ブエノスアイレス』(1997年)で最高到達点を迎えた。そのあとに撮られた『花様年華』は、まさに「円熟期の最初の一歩」だったのではないだろうか。
■公開情報
『花様年華 25周年特別版』
シネマート新宿、Bunkamura ル・シネマ 渋谷宮下、グランドシネマサンシャイン池袋ほかで全国順次公開中
<上映作品>
『花様年華 4K』
出演:トニー・レオン、マギー・チャン
監督・脚本・製作:ウォン・カーウァイ
撮影:クリストファー・ドイル、リー・ピンビン
2000年/香港/原題:花樣年華/英題:In the Mood for Love/98分/1.66:1/広東語/5.1ch/日本語字幕:岡田壮平
『花様年華2001』
出演:トニー・レオン、マギー・チャン
監督・脚本・製作:ウォン・カーウァイ
撮影:クリストファー・ドイル、リー・ピンビン
2001年/香港/原題:花様年華 2001/英題:In the Mood for Love 2001/9分/1.66:1/広東語/5.1ch/日本語字幕:岡田壮平
提供:アスミック・エース、TC エンタテインメント
配給:アンプラグド
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