『岸辺露伴は動かない 懺悔室』実写化なぜ成功? 不可能を可能にした制作陣の狂気と矜持

『懺悔室』実写化はなぜ成功?

 露伴としても、『懺悔室』では新たな一面を見せている。その象徴として挙げられるのが、田宮との対峙で宝くじを蹴り飛ばすシーンだ。

 自身の好奇心に忠実で、作品の「リアリティ」を何よりも重視するあまり、危険な目に遭うこともしばしばの露伴。田宮の告解を聞いたことをきっかけに「幸福になる呪い」に襲われた露伴は、漫画家としての名声や富が降ってくる状況に、激しい拒絶と苛立ちを覚える。その結果が「僕にはこんなものいらないんだよッ!」と宝くじを蹴り飛ばすシーンだ。

 原作にも「この岸辺露伴が金やちやほやされるためにマンガを描いてると思っているのかァーッ!!」というセリフがあるが、そこに込められているのは漫画家としての矜持。宝くじを踏みつけて蹴り飛ばす動きは台本には書かれておらず、高橋一生による即興的な行動だという。役に対する深い読解力と露伴への愛、そして長く露伴という役を演じ続けてきたからこその積み重ねによる力が成し得た芝居だ。

 鬱々としたヴェネチアでの物語の中で、京香は底抜けの明るさで光を放ってくれている。脚本の小林靖子が書いた「今日が最高の日なんて決められないです。だって明日、もっと大きな幸せが来るかもしれませんもん」というセリフは、演じる飯豊まりえ自身とも通ずる考え方であり、生き方になっている。

 そもそも泉京香というキャラクターは、実写シリーズで独自に形成され、荒木飛呂彦自身にも影響を与えていった特異な例だ。コミックス『岸辺露伴は動かない』第3巻の作者コメントにて、「実写ドラマや映画化の影響も逆にあって、泉京香さんのキャラに結構愛情を注いで描いています」と荒木は明かしている。「ホットサマー・マーサ」「ドリッピング画法」「ブルスケッタ」といった、実写シリーズが始まって以降の作品全てに京香が登場するようになったのは、その表れかもしれない。

 言うなれば、“スピンオフのスピンオフ”として誕生した最新作『泉京香は黙らない』(NHK総合)は、実写シリーズの特異点だ。原作・脚本協力としてクレジットされている荒木飛呂彦の名前に納得を覚える作品に仕上がっているという。

 荒木は『懺悔室』劇場用パンフレットの中で、「『短編』だった作品が、『岸辺露伴』がそうやって広がっていくことがとても感慨深いです。旅情豊かで、人生があって、香り高い宝石のような第一級のサスペンス作品。私たちの目指すところはそこだからです」とコメントしている。

 チームが目指した原点にして、集大成と言える極上のエンターテインメントが『懺悔室』なのである。

■放送情報
『岸辺露伴は動かない 懺悔室』
NHK総合にて、5月3日(日)16:10〜18:00放送
※NHK ONEで同時・見逃し配信予定
出演:高橋一生、飯豊まりえ、玉城ティナ、戸次重幸、大東駿介、井浦新ほか
原作:荒木飛呂彦
監督:渡辺一貴
脚本:小林靖子
音楽:菊地成孔/新音楽制作工房
人物デザイン監修:柘植伊佐夫
制作プロダクション:NHKエンタープライズ、ピクス
製作:『岸辺露伴は動かない 懺悔室』製作委員会
©2025「岸辺露伴は動かない 懺悔室」製作委員会 © LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

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