『ハイウェイの堕天使』は紛れもない“横浜映画” “コナンの世界”が現実世界を超えるとき
劇場版になると大胆に現実世界との垣根を突破してくるのが『名探偵コナン』シリーズの特徴のひとつといえよう。2025年の『隻眼の残像(フラッシュバック)』は長野県で、2024年の『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』では函館。もちろんテレビシリーズでも実在の場所が舞台やモデルに選ばれることはよくあるし、そもそも“コナンの世界”の中心である米花町も東京にある設定だし、警視庁のある桜田門は数えきれないほど多く登場しているのだが。
それでも劇場版になると、舞台となる場所やスポットにより現実味を与える描写が増え、そのなかで物理的法則や現実世界の常識を超越した“コナンの世界”をいともたやすく展開させるのがお決まりのパターン。とりわけここ数年、シンガポールのマリーナベイサンズを爆破破壊した『名探偵コナン 紺青の拳』以降はその傾向が顕著にあらわれており、いわゆる“聖地”的な経済効果への期待を感じずにはいられない。そういった点を踏まえれば、もっぱら『名探偵コナン』という作品は、「ミステリー」であり「アクション」であり、「ラブコメディ」であり、「観光映画」というわけだ。
なかでも現実世界とコナンの世界の垣根の突破――往来の仕方で特に興味深かったのは2021年の『名探偵コナン 緋色の弾丸』であり、同作においては現実側である名古屋にすんなり移動してから、作品のシンボルである真空超電導リニアに乗り込んで、コナンの世界側である東京へと帰っていく。では今回の『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』の場合はどうか。両方の世界を繋いでいるのは、ここでもやはり作品のシンボル――タイトルにも用いられている“ハイウェイ”、すなわち高速道路であると考えて間違いないだろう。
序盤のシーンでコナンたちは、首都高の横羽線を通って横浜へと向かってくる。その途中で黒いバイクに遭遇し大事故が発生。すると、コナンたちが来たのと同じ方角から黒いバイクを追いかけるようにして神奈川県警の萩原千速が颯爽と登場する。とうに神奈川県に入っているし、転回のできない高速道路という空間の性質上そうなって然るべきなのだが、この一連をもってはじめて、コナンたちと千速が同タイミングに“コナンの世界”から現実世界へと入ってくることが示される。
高速道路を駆け抜けた千速は、みなとみらいランプから降臨する。みなとみらいランプを降りると、すぐ目の前に鎮座しているのがランドマークタワーだ。文字通り横浜を象徴する建造物であり、これを含む一帯のビル群を見れば誰もが「横浜」を認識することだろう。そんな場所が境界を超えてすぐに存在している――すなわち、降り立った瞬間に「横浜」を舞台にした物語を始めることができる。そこで千速は、すぐさま横断歩道上で立ちすくむ少女を救う。すなわち、自らが本作のヒーローであることを驚くべきスピードで証明したのである。