『ひらやすみ』を傑作にした人生の“痛み” 岡山天音が演じたヒロトの“強さ”を忘れない

しかも、こんなに“ほのぼの”としているドラマにあって、ヒデキはヒロトのことを「どうして頑張っている俺より、全然頑張っていないおまえの方が幸せそうなんだよ」と思うまでになっているのである。かつて、ヒロトが辞めるときに、「俺はお前が俳優とか関係なく大事でさ」とまで言ったヒデキが、ヒロトを妬ましく思うくらいには、崖っぷちに立っていたのである。
もしかしたら、ここまでの表現は、このような“ほのぼの”としたドラマでは避けることなのかもしれないが、私は、このようなむき出しの、そこまで何が彼を追い詰めたのかと思われる感情が描かれているところに惹かれた。

そして、ヒロトは自分を救ってくれたヒデキを、今度は自分が救おうと彼の元にかけつけるのだった。
結局、ヒデキは自分を追い込む家具店の後輩から、「なんで怠けてるお前の方が幸せそうなんだよ」と言われてしまうが、これは、ヒデキがヒロトに向けた「どうして頑張っている俺より、全然頑張っていないおまえの方が幸せそうなんだよ」というセリフと相似しているのであった。これをどう捉えるべきかといえば、どんな人にも人を羨み、自分と比べてしまう瞬間はあり、そこから脱しないと、明るい未来はないということなのだろうか。
ヒロトはきっと、俳優をやめたときに、そうやって誰かの価値観に自分をあてはめて比べることもやめたのだろう。そういうヒロトの気楽な雰囲気は、ときにいっぱいいっぱいの人の心を刺激してしまうが、そのことによって、自分のいっぱいいっぱいさに気付くこともできるのである。実家で飼っている猫が死んでしまい、つらさを抱えながら阿佐ヶ谷の七夕まつりのはりぼてを作っていたときの立花よもぎ(吉岡里帆)もそうであった。

俳優をやめるほどに疲弊していたヒロトであるが、俳優をしていて喜びを感じていたときのふりかえりのシーンがあったこともよかった。彼が事務所に行き、マネージャーと思しき男性から「じゃあ、これからはオーディションとかばんばん受けようね、がんばりましょう」と言われ、うれしくて阿佐ヶ谷まで夜道を歩いていて、月を見て駆け出すシーンである。このときも無音の演出とヒロトの顔がほころんで笑顔に変わって行く様子に、思わず涙してしまった。
このヒロトが過去を思い出したシーンは、なつみが漫画家としての一歩を踏み出したことと重なっているのである。ひとあし先につらいことを経験し、そこから離れられて、人と自分の幸せを比較しなくなったヒロトは、なつみの希望と、自分のかつての叶わなかった希望さえも重ね合わせられるのだ。ヒロトはすごく強い人なのかもしれない。
■放送情報
夜ドラ『ひらやすみ』一挙再放送
NHK総合にて放送
第1夜:1月1日(木・祝)23:25~26:27(第1回~第12回)
第2夜:1月2日(金)24:10~26:11(第13回~第20回)
※NHK ONE(新NHKプラス)で同時・見逃し配信予定、1月2日(金)26:11〜全話配信予定
出演:岡山天音、森七菜、吉村界人、光嶌なづな、蓮佛美沙子、駿河太郎、吉岡里帆、根岸季衣 ほか
ナレーション:小林聡美
原作:真造圭伍
脚本:米内山陽子
音楽:富貴晴美
音楽プロデューサー:福島節
演出:松本佳奈、川和田恵真、高土浩二
制作統括:坂部康二、熊野律時
プロデューサー:大塚安希
写真提供=NHK























