『マッサン』から『ばけばけ』まで “シャロやん”シャーロット・ケイト・フォックスの歩み
その振れ幅を決定づけたのが、ミュージカル『シカゴ』(2015年)でのロキシー・ハートだろう。欲望や計算で世間の視線を集めようとするロキシーは、まっすぐさで愛された『マッサン』のエリーとは、立ち位置がまったく違う。歌・ダンス・芝居を同時に求められる舞台で、シャーロットは親しみやすいヒロイン像に寄りかからず、観客の視線を引きつける存在感で勝負してみせた。朝ドラで築いたイメージを守るのではなく、別の表現へつなげ直した転機として、『シカゴ』は象徴的な1本になっている。
だからこそ、『ばけばけ』のイライザが面白い。『マッサン』のエリーのように「誰かを支える」立場にとどまるのではなく、世界を飛び回る記者として、まず自分の仕事と知性で立っている人物だからだ。さらに彼女は、ヘブンに日本行きを勧めた役割を担う。物語の中では、そのひと言がヒロインを含めて登場人物たちの運命を動かすきっかけになる。そして見方を変えれば、シャーロット自身が『マッサン』で日本へ踏み出したあの一歩と重なる部分もある。
本人は本作について「5年ぶりにお芝居をする」機会だと話し、その間に出産を経験したことで、自分の中に生まれた変化を芝居に生かしたいとも語っている(※2)。『マッサン』のころの彼女には、未知の環境へ勢いよく飛び込んでいく若さが、そのままエネルギーとして表れていた。そこから年月を重ね、生活者としての時間を積み上げた今、イライザの自立した強さは、より現実味のある形で描かれていくだろう。その説得力こそ、復帰作の見どころになるはずだ。
『ばけばけ』は、怪談を手がかりに、国や言葉の違いを越えて人が通じ合う瞬間を描こうとする作品だ。そこでイライザは、異文化をつなぐ役目を担うだけでなく、自分の仕事と意志で道を選ぶ女性として描かれる。『マッサン』で親しまれた彼女の印象を踏まえた上で、今回は別の角度からシャーロットの魅力が見えてくるはずだ。物語に合流するイライザが、どんな存在感で作品を動かしていくのか、楽しみだ。
参照
※1. https://realsound.jp/movie/2025/10/post-2183967.html
※2. https://realsound.jp/movie/2025/10/post-2183967.html
■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK