『ストレンジャー・シングス』『IT/イット』 フィン・ヴォルフハルトの成長が止まらない

 『ザ・ゴールドフィンチ』(2019年)においても彼の演じるキャラクターは“クィアネス”を帯びている。ヴォルフハルト演じるボリス・パヴリコフスキはウクライナに生まれ、数々の地を点々としてきた移民であり、ラスベガスの学校に転校してきた主人公テオと出会う。飄々と煙草を吸い、万引きまでするボリスは、テオに酒やドラッグを教える。ここで2人が深めていった親密性はただならぬものであったようにみえる——たとえばトリップした状態でプール際に寝そべり、手と手が触れる距離で「秘密の共有」をしたり、同衾が暗示される場面があったり、別れぎわにはボリスがテオにキスをしたりする。彼ら2人の関係が名づけられたものとして明示されることはないが、友情とロマンティックな感情の境界を揺れうごくような“クィア”な関係性が映しだされている。

 『ザ・ターニング』(2020年)では、主人公が住みこみ家庭教師としてやってきた屋敷に住む不気味な孤児兄妹の兄マイルズを演じている。原作はヘンリー・ジェイムズの『ねじの回転』で、デボラ・カー主演で映画化された『回転』(1961年)はJホラーにも多大なる影響を与えたとされる。『ザ・ターニング』は説明不足のきらいもあってか難解な映画ではあるが、亡くなった乗馬の先生クイントとマイルズとのあいだには特別な親密さがあったことが察せられる。使用人は「クイントはマイルズを頻繁に外に連れ出していた」と語り、クイントの不適切な言動の数々を貶めるが、クイント亡きあともマイルズは彼のセーターを着ている——それは着てはいけないものとされているのにも関わらず。双方向に向けられた欲望によって結びつけられた危うい2人の関係性はまさしく“クィア”なものとして見いだし、読みとくことができるだろう。

 『ストレンジャー・シングス』では、シーズン4においてようやくウィル(ノア・シュナップ)がマイクに想いを寄せていることが明確にされた。親友に片想いというシチュエーションでいえば『IT』で見覚えがあり、ヴォルフハルトの配役が逆転したようにもとれる。エピソード8の車内の場面でウィルは、自信を喪失するマイクに対して「いかにエル(ミリー・ボビー・ブラウン)がマイクを特別に思っているか」を語ったが、そこにはエルの語りを装ったウィル自身のマイクへの特別な想いも含まれていた。その後マイクに見えないように涙を流す場面はシーズン4屈指の名シーンで、思わずもらい泣きしてしまった視聴者も多いだろう。

 シーズン5でのウィルは、レズビアンであるロビン(マヤ・ホーク)がガールフレンドとキスしているところを目撃したところから彼女との親交を深める。年長のロビンが語る同性愛者として生きてきた経験や得た教訓は、ウィルに自分自身のありかたを認めるヒントを与える。そして、ゲイであることを原因のひとつとした居場所のなさをヴェクナ(ジェイミー・キャンベル・バウアー)に同情されたのに対抗するかのように、ウィルは覚醒するのだ。ウィルの覚醒シーンにかぶせられるのは、「自分を恐れるのをやめればいいだけ」と語るロビンのモノローグであり、またマイクとブランコに乗っていた日にはじまるさまざまな記憶である。ウィルはみずからの過去と、自分自身ですら恐れてきた己れのありのままと折り合いをつけ、マイクをはじめとする友人たちに襲いかかるデモゴルゴンたちを一網打尽にする。それは能力的な“覚醒”であると同時に、みずからの“クィアネス”をポジティヴにつかみとった証左であるともいえるだろう。

 シーズンを追うごとに“クィアネス”を増していく『ストレンジャー・シングス』がいかに完結するのか、またウィルの片想いはどこに向かうのか、最終話の配信を楽しみに待ちたい。

■配信情報
Netflixシリーズ『ストレンジャー・シングス 未知の世界 5』
VOL 1(第1~4話): 配信中
VOL 2(第5~7話): 12月26日(金)10:00〜配信
フィナーレ(第8話): 2026年1月1日(木)10:00〜配信
出演:ウィノナ・ライダー、デヴィッド・ハーバー、ミリー・ボビー・ブラウン、フィン・ヴォルフハルト、ゲイテン・マタラッツォ、ケイレブ・マクラフリン、ノア・シュナップ、セイディー・シンク、ナタリア・ダイアー、チャーリー・ヒートン、ジョー・キーリー、マヤ・ホーク、プリア・ファーガソン、ブレット・ゲルマン、ジェイミー・キャンベル・バウアー、カーラ・ブオノ、エイミーベス・マクナルティ、ネル・フィッシャー、ジェイク・コネリー、アレックス・ブロー、リンダ・ハミルトン

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