『ストレンジャー・シングス』『IT/イット』 フィン・ヴォルフハルトの成長が止まらない

 スタートから約10年が経った現在でも熱狂的人気を誇るドラマシリーズ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』の最終シーズンの配信が開始された。シーズン1のころはまだ幼い子どもだったキャスト陣はすっかり成長し、劇中のキャラクターたちも年長者として街の子どもたちを守るほどの精神的成長を見せている。本シリーズの序盤から物語の中核を担い、グループを先導してきたマイク・ウィーラー(フィン・ヴォルフハルト)もそのひとりで、シーズン5でもその活躍は止まらない。

 マイクを演じるフィン・ヴォルフハルトは『ストレンジャー・シングス』でブレイクしたのち、『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』で長編映画デビュー、その後も多くの映画に出演し、声優としても活動している。マイクの印象が強いヴォルフハルトだが、彼のフィルモグラフィには通底したもの——それは“クィアネス”とも名づけられるだろう——が見いだせる。

 ヴォルフハルトがリッチー・トージア役で出演した『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(2017年)および『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』(2019年)の2部作は、「ホラーの帝王」とも呼ばれるスティーヴン・キングの小説を原作とした大ヒットホラー映画である。27年おきに現れるIT/ペニーワイズと、いじめられっ子たちで結成されたルーザーズ・クラブの闘い──1作目ではITと初めて対峙した少年期が、2作目では27年後の大人になった彼らの再会とITとの最後の闘いが描かれる。

 『IT』シリーズを構成する要素のひとつに“クィア”があるのは明確である。映画2作目の冒頭はゲイカップルが市民に暴行を加えられたのちIT/ペニーワイズに殺される事件に始まる。これはチャーリー・ハワード殺害事件というアメリカで実際に起きたヘイトクライムにインスピレーションを得たものであろう。またこの場面で惨殺される役としてグザヴィエ・ドランがキャスティングされているのも特筆すべき事柄だろう。ドランといえば自身がゲイであることを公表している映画監督であり、自伝的映画『マイ・マザー』でデビューしてから、同性の幼なじみを描いた『マティアス&マキシム』に至るまでゲイの感情の機微を描きつづけてきた。

 リッチーは自身のセクシュアリティを隠し、ルーザーズ・クラブのメンバーであるエディ(ジャック・ディラン・グレイザー)に想いを寄せていたことが劇中幾度となく示唆されている。それはたとえば幼少期に木板に彫りつけていた「R+E」の文字や、エディの死後も彼に執着しつづけた様子から明らかであり、またヘンリーがリッチーを「faggy(同性愛者を侮蔑するスラング)」と呼びつけていた場面の想起からも彼のセクシュアリティへの意識が見てとれる(字幕では訳出されていないのが残念ではあるが)。自分のもっとも恐れているものの姿で現れるとされるITは、大人になったリッチーに対して「やましい秘密をバラしてもいい?」と脅す。ここでの「秘密」は、リッチーのセクシュアリティであり、エディへの秘めた感情であろう。リッチーはみずからの性的指向が周囲に知られることを恐れており、ずっとクローゼットのなかに閉じこもっている。

 現実においてはヘイトクライムによって、フィクションのなかでは悲劇的な犠牲者として殺されてきた──本作2作目の冒頭がそうであるように──クィアが、脅威に対して勇敢に立ち向かい勝利を果たす物語として、『IT』シリーズは評価することができるだろう。エディに遺されるという悲劇性は保持しているが、ラストのリッチーに重ねられるモノローグは「自分らしく生きろ、誇りを持て」というエンパワリングで解放的なことばである。ヴォルフハルトが幼少期を演じたリッチー・トージア、そして映画『IT』はクィア・リーディングの余地をひろく備えている。

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