稲垣吾郎が明かす“ミステリアスでいたい理由” 10年ぶりのPARCO劇場で挑む伝統の喜劇

 稲垣吾郎の主演舞台『プレゼント・ラフター』が、2026年2月より東京・PARCO劇場を皮切りに、京都、広島、福岡、仙台で上演される。本作はイギリスの俳優で劇作家のノエル・カワードによるラブコメディだ。

 稲垣が演じるのは、誰からも愛されるスター俳優のギャリー。順風満帆なキャリアを誇りつつも、人気職業ならではの“老い”への不安や、私生活でもつい演じてしまうといったどこか満たされない感情を抱えていた。そんなギャリーが海外公演へ出発しようとしていた矢先、個性豊かな人々が次々と彼を訪ねてきて――。

 主人公ギャリーについての印象を問われると「僕を当て書きしたのでは?」と笑う稲垣。本作の初演は1942年なので、もちろんそれは不可能な話なのだが、思わずそう感じてしまうほど親近感が湧いたキャラクターなのだという。繰り返し上演されてきた伝統ある作品に臨む心境、10年ぶりに立つPARCO劇場への思い入れ、そして“稲垣吾郎”という存在だからこそ生まれるコメディについて、稽古入り直前の稲垣がその胸の内を軽やかに語ってくれた。(佐藤結衣)

「親しい人にとってもミステリアスな存在でいたい」

――台本を読まれたときの感想はいかがでしたか?

稲垣吾郎(以下、稲垣):とても面白かったですね。スキャンダラスで、刺激的で。今だって、ちょっと正しくないとすぐに怒られてしまうような世の中じゃないですか。なのに「これを本当に1942年に上演していたの!?」と驚きました。でも、だからこそ演劇ぐらいは自由に、見ちゃいけないものを見るような感じで楽しんだのかな、なんて想像したりして。演劇の国、イギリスを代表する作品でもあるので、こういうストレートプレイのお芝居が好きな自分としては楽しみになりました。

――翻訳劇という点での難しさはありますか?

稲垣:演劇が始まるときはいつもそうなんですが、特に海外の翻訳はセリフをそのままの意味ではなく、裏の裏にまで意識を向けなければならない難しさがあります。今回もウィットに富んだ会話劇なので、キャラクターたちのセリフが当時流行していた芝居や文学作品のセリフを引用したやりとりとかもあるんですよ。そういう背景まで勉強しながら紐解いていって、現代風の“おかしみ”に変えていけたら、上品な大人のラブコメディになるんじゃないかなと思います。

――物語は若手女優、家政婦、使用人、秘書、元妻、脚本家志望の青年、マネージャー、演劇プロデューサー、友人の妻など、個性豊かな面々が登場し、ギャリーを取り合うようにドタバタ騒動が起こります。

稲垣:夫婦あり、男女の恋愛あり、男同士の友情あり、同性愛のような感情もあり……と人間関係がいくつも交錯していますよね。スピード感もありますし、そのぶんセリフ量も多くなるので、ちょっと台本を読んだ段階ではこんがらがってしまいそうになりました(笑)。とにかくギャリーは「ノー」と言えない感じなんだろうなと。色恋を求めているプレイボーイというわけではなく、サービス精神が旺盛というか。「ちょっとモテている自分」が俳優として必要なのかなと思っているところもありそうですよね。そういうところもわからなくもないんですよ。

――ギャリーと似ていると感じる部分は多いですか?

稲垣:けっこう似てると思います。イラチ(イライラしやすい、せっかちな人)ですしね(笑)。僕を当て書きされたのかな、なんて思うくらい。ギャリーは気難しそうに見えて、実はやさしい。人間的にもイキイキしていて魅力的ですし、なんだかんだ愛されキャラですよね。個人的には作者のノエル・カワードさんが、ご自身を投影された作品であるというところも興味深く感じました。僕も俳優なので、ギャリーの言動を「わからなくないな」って思う部分もあるんですよ。人に好かれようとしてつい演じちゃう、みたいなところとか。「本当の自分がどこにいるんだろう」みたいな感覚って、もちろん誰しもが感じるところはあると思うんですけど、こういう仕事をしていると特に強く感じるのかなと。演じるのが今から楽しみです。

――こだわりの強いギャリーには「起きるまで起こしてはいけない」といったルールがいくつもあり、周囲の人々がそれを気にかけている姿もまた笑いを生みます。

稲垣:恥ずかしい部分ではありますが、はたから見るとわがままで自分勝手に生きてきたなっていう心当たりは自分にもありますね(笑)。起こされたくないというのはないけれど、規則正しい健康的な生活を続けていくこととか、自分なりのルーティンを崩されたくないみたいな。舞台の稽古中はどんどんセリフを覚えていかなくてはならないので、朝の時間を特に大切にしています。早起きをして、気分がいいときには公園へ行って散歩をしながら覚えることも。あとは、自分のパーソナルスペースは侵されたくない、とか。例えば、急に楽屋に入ってこられるとイラッとするとか。昔から寝てるところとか、食べてるところとか、そういう生理現象的なところを見られるのがイヤなんですよね。

――プライベートな空間に人が入ってくることそのものが厳しいですか?

稲垣:そうですね。なので、ギャリーの家に次々にたくさんの人が入ってくる感じは、僕では考えられない! 猫は全然構わないんですけどね。僕の家の猫たちはむしろ「侵食されたくない」って距離を保つくらいなので。最近つくづく思うんですよ、猫のほうが人間よりも自立しているなって。僕なんかはすぐ人に迷惑をかけてしまいますけど、猫たちは自分で自分を喜ばせて、自分の機嫌をとることもできる。僕はきっと憧れているんですよね、猫という崇高な生きものに。

――なるほど。ギャリーは「ここを抑えておけばOK」というポイントもありましたが……!?

稲垣:僕としては逆に「こうしておけば機嫌がいいんでしょ?」っていうのがバレてしまっているのも、なんかイヤなんですよね。親しい人にとってもミステリアスな存在でいたいっていう、勝手な自分の理想があるんです。心のパーソナルスペースが必要というか。そういう意味では、僕のほうがギャリーよりずっと気難しいかもしれない(笑)。

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