朝ドラ『ばけばけ』は北香那の代表作へ 出演作3選から紐解く“愛さずにいられない”人物像

『魔法のリノベ』
波瑠主演の月10ドラマ『魔法のリノベ』(カンテレ・フジテレビ系)で北が演じた五十嵐桜子は、悪女として視聴者の記憶に強く刻まれているのではないだろうか。主人公・小梅の元カレと関係を持つ女性として登場し、嫉妬や執着心を隠そうともしない振る舞いで、物語に波紋を広げていく役柄だ。
桜子は、表面だけをなぞれば分かりやすい“こじらせキャラ”に見える。しかし北の芝居は、そこにもう一段階深いレイヤーを乗せている。恋愛にしがみつくことでしか自分の価値を確認できないような、危うい自尊心。その奥で、置き去りにしてきた孤独や不安がずっと燻っているような気配。そうした感情が、視線の泳ぎ方や声のかすれ具合から静かに伝わってくる。
だからこそ、視聴者は桜子をただ嫌いにはなれない。やっていることは間違っているのに、どこかで「ここまでこじれてしまう気持ちも分かる」と感じてしまう。その複雑さを成立させることができる女優だと証明したことは、北のキャリアにとって大きかったはずだ。『ばけばけ』のリヨにも、この業の深さが明確に受け継がれている。リヨは、いわゆる単純な恋のライバルではない。家柄の重圧や、女性としての生き方をめぐる葛藤を抱えた人物だ。その本音を、全面的に語らせるわけではないまま、視聴者に想像させる余白を残す。この構造を支えているのは、『魔法のリノベ』で鍛えられた、人間の弱さと滑稽さを同時に引き受ける演技の蓄積だ。
『春画先生』

映画『春画先生』で北が演じた春野弓子は、物語を観客の側から支えるヒロインだった。喫茶店で働く若い女性が、春画との出会いをきっかけに、未知の世界と自分自身の欲望に向き合っていく。偏愛コメディとも言うべきトーンの中で、北は明るさと危うさの両方を抱えたキャラクターを、浮つかせることなく地に足のついた人物として演じている。
喫茶店での出会いのあと、弓子は芳賀から渡された名刺を頼りに家を訪ねると、畳の上には春画が次々と並べられていく。画面の端で小さく息をのみ、思わず一歩退きながらも、気づけば膝をついて身を乗り出している。その揺れ動きの途中には、セリフよりも少し先に表情が変わる瞬間や、言葉の前に呼吸だけが漏れる一拍が必ず挟まっている。何度も登場するラブシーンでも、その描き方は変わらない。肌を見せる場面でありながら、どこを見るのか、どれくらい相手の肩に身体を預けるのかといった細かな動きの一つひとつに、弓子の中に残っているためらいや覚悟がそのままにじんでいる。シーンの強度を決めているのは、描写の大胆さではなく、どこまで感情に踏み込むかというさじ加減だ。そのバランス感覚の確かさに、北の演技の芯の強さがよく表れている。

そのうえで、2026年1月期の夜ドラ『替え玉ブラヴォー!』(NHK総合)では、広告代理店で働く千本佳里奈役で主演を務める。仕事に追われる日々のなかで、バレエにまつわる新ブランドの発表会を担当することになり、疎遠になっていた親友との再会をきっかけに、かつての夢や現在の立ち位置と向き合っていく物語だ。ドラマの中心で、北がどんな温度で笑い、迷い、決断していくのか。朝ドラで北香那を知った人が、今度は夜の時間帯で彼女の芝居に触れることになるという流れは、それだけ期待されている証でもある。
『ばけばけ』のリヨは、北にとって単なる代表作候補というだけではなく、ここまで積み上げてきたものが、朝ドラという場で花開いたことを示す役でもある。『ばけばけ』が多くの視聴者にとって北香那という俳優の入り口になればなるほど、『替え玉ブラヴォー!』でその先の表情や感情の振れ幅に出会えることが、いっそう楽しみになってくる。
■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK





















