清光院の“ランデブー”は何を映してきた? 『ばけばけ』堤真一、寛一郎、下川恭平の役割

『ばけばけ』堤真一、寛一郎、下川恭平の役割

山根銀二郎(寛一郎)

 2度目に清光院へ向かう相手が、寛一郎演じる銀二郎だ。鳥取の足軽の家に生まれ、父親の価値観に縛られながらも、自分の力で身を立てたいと考えている青年として描かれる。お見合いをきっかけにトキと出会い、松野家に婿入りして、経済的には厳しい中でも誠実に暮らそうとする最初の夫となる人物だ。

 銀二郎との清光院の場面では、傳のときとはトキとの距離の取り方が変わっている。トキが楽しそうに怪談の細部を話し、銀二郎がそれをきちんと受け止めるように聞いている。そのやりとりから、身分や家の事情とは別に、怪談の話を共有できる相手をようやく見つけた手応えがトキからは伝わってくる場面だった。

 寛一郎は、どこか影を抱えた若者像を、力みなく演じられる俳優だ。銀二郎もその延長線上にあるキャラクターで、真面目で声を荒らげることは少ないが、視線の向け方や姿勢のわずかな変化に、彼なりの葛藤や迷いがにじんでいる。やがて銀二郎は松野家を離れ、トキと別々の道を歩むことになるが、清光院でのランデブーは、二人の距離が縮まるきっかけとなった。

 傳がある意味怪談の世界へ連れて行ってくれた大人だとすれば、銀二郎は同じ怪談を同じ目線で楽しむことができた相手だと言える。寛一郎の落ち着いた佇まいが、トキが恋愛と結婚のあいだで揺れ始める局面を支えていた。

小谷春夫(下川恭平)

 3人目のランデブーの相手は、下川恭平演じる小谷だ。ヘブン(トミー・バストウ)の教え子として登場した春夫は、まだ将来の道がはっきりしていない一人の少年で、トキに対して素直な好意を見せる人物として描かれている。

 下川の芝居は、あまり力みのない自然な演技が印象的だ。『国宝』などでも、説明的になりすぎない中で、少し不器用な若者の空気をきちんと出してきたが、『ばけばけ』の小谷も同じで、トキの前に立ったときの緊張やうまく話そうとする気持ちが、そのまま表情や動きに表れている。

 第50話で小谷もまた、トキを清光院に誘うのだが、ここでこれまでと違うのは、清光院がトキにとってすでにおなじみの場所になっていることだ。これまで案内される側だったトキが、小谷とのランデブーでは、清光院や「松風」について説明する側に回る。それはもう自分の好きな怪談話ということでウキウキだ。

 小谷のほうも、ただなんとなく連れてきたわけではない。あらかじめ怪談本に目を通し、清光院についても調べたうえで、謡曲「松風」まで練習してくる気合の入りっぷりだ。トキが夢中になって怪談の魅力を語れば語るほど、肝心の小谷はついていけなくなり、「時間の無駄です」といった言葉で、トキの好きそのものを否定してしまう。トキは「自分は好きだ」とだけ伝えようとするが、その一言さえも小谷は自分への気持ちだと受け取ってしまい、気持ちだけが空回りしたままその場を去っていくという、トキにとっては苦いランデブーになってしまった。

 『ばけばけ』にとって清光院は、怪談「松風」の舞台であると同時に、トキの恋や成長の節目を映し出す場所にもなっている。そこに立つ相手が変わることで、トキの見え方も変わっていく。今後の物語の中で、彼女がまたこの場所を訪れるのかどうか、そしてそのとき隣に誰がいるのだろうか。

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

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