宇野維正の映画興行分析

空前の惨敗 『果てしなきスカーレット』の興行をどこよりも早く総括する

 12月第1週の動員ランキングは、Mrs. GREEN APPLEのデビュー10周年を記念して製作されたドキュメンタリー作品『MGA MAGICAL 10 YEARS DOCUMENTARY FILM 〜THE ORIGIN〜』が初登場1位、同じくMrs. GREEN APPLEが今年7月にデビュー10周年を記念して開催したライブを映像化した『MGA MAGICAL 10 YEARS ANNIVERSARY LIVE 〜FJORD〜 ON SCREEN』が初登場3位。前者のオープニング3日間の動員は16万2200人、興収は2億5100万円。後者のオープニング3日間の動員は14万8500人、興収は4億9100万円。3位の『MGA MAGICAL 10 YEARS ANNIVERSARY LIVE 〜FJORD〜 ON SCREEN』の方が大幅に興収を上回っているのは特別料金での興行のため。動員ランキングではなく興収ランキングならば、同作がダントツの1位となる。

 前週の本コラムで「次週じっくりと分析する」とした細田守監督の新作『果てしなきスカーレット』だが、今週木曜日まではスクリーン数もある程度キープされていたにもかかわらず、なんと2週目でトップ10からも脱落してしまった。さすがにここまでの惨敗には驚いてしまったが、今年の国内映画興行における業界内の予測からの下振れという点では最大のインパクトを残した作品なので、事件簿として記事に残しておこう。

 『果てしなきスカーレット』の公開1週目、オープニング3日間の興収は2億1000万円。これは最終興収66億を記録した4年前の前作『竜とそばかすの姫』の同期間の23.5%の数字。公開2週目の週末までの動員は27万9900人、興収4億1800万円。これは『竜とそばかすの姫』の同期間の17%の数字。今週末からはスクリーン数も大幅に減らされているので、最終的には前作の10%程度まで落ち込む見込みだ。

 同じ規模で公開された一人の監督の作品の興収がここまで急降下するのは前例のないことで、そこにはいくつもの要因があるわけだが、前作『竜とそばかすの姫』との比較で言うなら、同作の公開時はコロナ禍で新作の公開作品数そのものが少なく、それによって興収が膨らんだことが挙げられる。また、多くの人が指摘しているように、今回の『果てしなきスカーレット』は初日から驚くほど空席が目立っていた。これは『竜とそばかすの姫』を劇場で観た観客の多くが、作品の評判を聞く前から新作に期待を抱いていなかったことを示している。前々作『未来のミライ』まで遡るなら、「細田守作品ならば観に行く」というコア層が近作への失望の蓄積によって、最初から大きく目減りしていたわけだ。

 もう既にピークは過ぎたが、ソーシャルメディアで吹き荒れた作品への悪評は、その前提を抜きには語れない。つまり、『果てしなきスカーレット』で巻き起こった現象は、ヒット作には付きものの賛否両論ではなく、公開直後に劇場に駆けつけた絶対数は少ない観客からの「生の声」に他ならなかった。主に作品を未見の人から、宣伝ビジュアルや予告編の希求力のなさを指摘する声も多かったが、実際に作品を観れば、あのポスターもコピーも予告編も苦肉の策であったことがわかるだろう。予告編や、公開に合わせた企業タイアップCMで、新作の映像だけでなく過去作のシーンを繋ぎ合わせた映像を作るしかなかったことが、それを何よりも雄弁に語っている。

■公開情報
『果てしなきスカーレット』
全国公開中
出演:芦田愛菜、岡田将生、山路和弘、柄本時生、青木崇高、染谷将太、白山乃愛、白石加代子、吉田鋼太郎、斉藤由貴、松重豊、市村正親、役所広司
監督:細田守
配給:東宝、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
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