『鬼滅』『呪術』『チェンソーマン』で死角なし? アニメ映画化で沸く集英社IPのこれから

今後の集英社IPのゆくえ

 『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』は本編の連載が終わっており、アニメもいずれ完結を迎える。『チェンソーマン』は作品内容の変化がアニメ化にあたって課題となりそう。2025年に絶好調だった集英社原作のアニメ映画の将来を迷わせる。

 とはいえ、古舘春一の漫画が原作の『ハイキュー!!』については、最終章にあたる『劇場版ハイキュー!! VS 小さな巨人』の制作が進んでおり、映画館に登場すれば話題になることは確実だ。TVシリーズでは堀越耕平原作の『僕のヒーローアカデミア』がアニメでも終わりを迎えたが、スピンオフ作品『ヴィジランテ -僕のヒーローアカデミア ILLEGALS-』がコミックとアニメで広がりを見せている。4作ある劇場版のようなオリジナル脚本での新作映画も期待できる。強い原作を作り上げた集英社だからできる展開だ。

 その次は? TVシリーズでは『ダンダダン』や『SAKAMOTO DAYS』がファンを獲得し、配信を通して世界中で大人気となっているが、『鬼滅』や『チェンソーマン』のような強力なアニメ映画になり得るかは未知数だ。『SPY×FAMILY』の劇場版も期待したいが、今はTVシリーズの第3期で手一杯だろう。実写ドラマが評判の『ONE PIECE』やTVシリーズ『ドラゴンボールDAIMA』が話題になった『ドラゴンボール』シリーズは、アニメ映画になれば確実にファンを呼べる作品だが、話は聞こえてこない。

 『キルアオ』や『超巡!超常先輩』のアニメ化も決まったが、原作の漫画が終わっているだけに盛り上がりに欠けそう。連載の人気もあって評判を呼びそうなのが『あかね噺』だが、映画になったとしても当面先の話。ここ数年は『鬼滅』『呪術』あたりが集英社作品のアニメ映画の軸になっていくのだろう。ではその後は? 新規の話題作なり過去の名作から新たな”金鉱”を探り当てていくしかなさそうだ。

 直近では、桜坂洋のライトノベルで、トム・クルーズとエミリー・ブラントというスターが出演して実写映画になった『All You Need Is Kill』(集英社スーパーダッシュ文庫)が、2026年1月9日に『ALL YOU NEED IS KILL』として劇場公開される。青木康浩監督の『ChaO』や湯浅政明監督の『マインド・ゲーム』を手がけ、先鋭的な表現で世界に支持者を持つSTUDIO4℃によるアニメはルックも色彩もハイエンド。原作やハリウッド映画ではケイジの相棒だったリタが主人公となって、原作とも映画とも違う地点から始まる物語を見せる。ここから作品への再認識が起こり、待望のハリウッド版続編となれば集英社としても嬉しいだろう。

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 ライトノベルでは、みかみてれん原作による『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)』(ダッシュエックス文庫)のアニメがとてつもなく盛り上がっている。TVシリーズの1クールに収まり切らなかった原作の第4巻を5話分のアニメにして劇場公開したものが、凄まじいばかりの動員を見せている。

 『猗窩座再来』以上にTVシリーズをつなげた感じが色濃いが、1巻分のストーリーとしてまとまっていることもあり、驚きのカタルシスを得られる映画に仕上がっている。ここでの評判を受け、TVシリーズの続きが作られ放送されていく中で、ライトノベル発の集英社アニメとして空前の作品に成長する可能性がある。『転生したらスライムだった件』や『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった……』のように、TVアニメとは別にオリジナルの映画が作られたようなことも起こるかもしれない。期待は膨らむ。

オリジナルアニメ映画の動向

 もっとも、集英社に限らず最初から知名度を活かせる漫画などのアニメ映画化ばかりが多くなって、宮﨑駿監督作品のようなオリジナルのアニメ映画が作られなくなって良いのかという課題は残る。『SHIROBAKO』『さよならの朝に約束の花をかざろう』を手がけたP.A.WORKSがアニメスタジオの経営について書いた本『未来を照らす、灯りをともす。アニメの制作会社が自立するために アニメーション制作会社・P.A.WORKS 25年物語』(地域発新力研究支援センター)の中で、創業者の堀川憲司代表取締役が、「オリジナルを生み出す苦労を回避して、全部原作ものに依存してしまったらアニメ業界はオリジナルアニメーションを作る想像力と創造力を失って、将来取り返しのつかないことになるんじゃないの、と思う」と書いている。

 だから、興行的には苦戦していても細田守監督『果てしなきスカーレット』が作られ公開されたことには意味がある。2026年3月13日には『コードギアス 反逆のルルーシュ』の谷口吾朗監督によるオリジナル劇場アニメ『パリに咲くエトワール』が公開。虚淵玄が脚本を書き水島精二が監督した『楽園追放 -Expelled from Paradise-』の続編『楽園追放 心のレゾナンス』の制作も進められている。

 直近では、『マクロス』シリーズの河森正治監督がスマホ世代の関心と不安を捉えて描いた『迷宮のしおり』も2026年1月1日に公開される。海外からは『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』や『AKIRA』を思わせる『マーズ・エクスプレス』が来て1月30日に日本公開され、オリジナルのアニメ映画で急成長を遂げる海外の風を吹き込む。『すずめの戸締まり』からしばらく経つ新海誠監督の次回作も、そろそろ動向が見えてくるころだろう。

 興行の面では、2025年は集英社が一人勝ちしたように見えるアニメ映画だが、講談社も自社IPの世界展開に力を入れ始め、10月にはニューヨークで没入型ポップアップ「KODANSHA HOUSE」を開設した。ライトノベル原作を多く持つKADOKAWAもグループ内にいくつもアニメ制作会社を持ってテレビや劇場に向けてアニメを投じていく。オリジナルへの挑戦も、P.A.WORKSに限らずCLAPが『ホウセンカ』を作り、『この世界の片隅に』の片渕須直監督が『つるばみ色のなぎ子たち』を作っているように絶えることなく続いている。

 アニメ好きには嬉しい状況が続くということだけは確実だ。

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