『鬼滅』『呪術』『チェンソーマン』で死角なし? アニメ映画化で沸く集英社IPのこれから
集英社から原作が出ている作品のアニメ映画が絶好調だ。『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』と劇場版『チェンソーマン レゼ篇』が映画興行のランキングに入り続け、TV放送に先駆けて公開された『劇場版 呪術廻戦「渋谷事変 特別編集版」×「死滅回游 先行上映」』も行われてファンを集めた。向かうところ敵なしに見える集英社IPのアニメ映画だが、果たして死角はないのか。対抗勢力は現れるのか。
『鬼滅の刃』
日本の映画で歴代最高となる407億円の興行収入記録を打ち立てた『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』から5年。『無限城編 第一章 猗窩座再来』は国内興収で380億円を稼ぎ出し、全世界では日本映画として初となる1000億円超えを達成した。TVシリーズから始めて原作をていねいにアニメ化し、支持を高めてきた成果がここに来て世界レベルで爆発した。
興味深いのは、吾峠呼世晴の原作では最終章にあたる、いよいよ鬼舞辻無惨と戦うエピソードの始まりにあたる部分だけを抜き出した映画が、これほどまでの支持を集めたこと。『無限列車編』の場合はまだ、魘夢と鬼殺隊との戦いを経て、煉獄杏寿郎が猗窩座と激突するエピソードとしてまとまりがあった。映画館で観て1本の作品として満足感を得られた。
『猗窩座再来』の場合は先に激闘が続く。猗窩座の過去が決着する感動は得られても、続きはどうなるといった興味も浮かんで落ち着かない。原作のシーンを余さず映像化しているため、映画として観た場合に冗長なところもあった。それを、日本だけでなく全世界の人たちが受け入れたのは、『鬼滅の刃』が築き上げてきた作品力の大きさゆえだろう。原作が持つ力をufotableというアニメ制作会社がパワーアップさせてきたからこそ許される興行形態とも言える。
こうなると、残る二章分がそれぞれ長大な映画となっても、テレビなり配信に来る前に観たいという観客を動員し続けることは確実だ。たとえ完結にあと5年かかったとしても、ファンが離れることはないだろう。
『チェンソーマン』
『レゼ篇』の場合は、『無限列車編』や芥見下々の漫画を原作にした『劇場版 呪術廻戦 0』と同様に、藤本タツキの原作でもまとまりのあるエピソードを抜き出し映画にしたことで、映画館で観て満足感を得られる作品になった。
2022年に1クールだけ放送されたTVアニメは、MAPPAが手がけるスピーディでスタイリッシュなアニメが話題になったが、雑然として猥雑さが漂う藤本タツキの絵柄やセリフとの差を口にする人もいて、評価は分かれた。『レゼ篇』で監督がTVシリーズの中山竜から𠮷原達矢に代わったのも、傾向を変えて原作のファンが藤本タツキ作品のアニメとして望む雰囲気に近づけたかったからなのかもしれない。
レゼとデンジが出会い交流して激突し、切なさに溢れた帰結へと至る物語そのものも良かった。結果、『レゼ篇』は『猗窩座再来』や映画『名探偵コナン 隻眼の残像』の144億円に続くアニメ映画のヒット作に名を連ねた。
続く原作のアニメ化にも期待がかかるが、レゼとの邂逅を経た後の原作はデンジをめぐる血みどろの戦いが起こって、『レゼ篇』のように映画としてまとまりがあり、感動を味わえるような展開にはならない。「公安編」に続いて始まった第二部「学園編」はさらに混沌を極め、『少年ジャンプ+』に最新話が載るたびに驚きを誘っている。何だよミシガン州剣って? そんな感じだ。