『ぼくたちん家』は“ボーイズラブ”ではない 普遍的に描かれる生きづらい社会のリアリティ

 キャラクターの魅力を最大限に引き出すキャスト陣の好演も光る。及川光博と手越祐也が持ち前のスター性や明るさを封印して、最初は一方通行だった玄一と索の関係性がなだらかに変化していく様子を温かくコミカルに表現する。そして、大人びた態度にも母親不在の寂しさを滲ませる、ほたるのどっちつかずな感情をふとした表情に宿す白鳥玉季の芝居がすばらしい。

 ちょっとした変化で崩れてしまう、絶妙なバランスで成り立つ3人のつながり。異なる年代の役者陣が彼らの心の機微を敏感に察知して演じてくれたことで、それぞれのキャラクターが少しずつ歩み寄る軌跡が目に見えて映し出されていた。

 パートナー相談所の百瀬から授けられた「恋と革命」という金言によって、うっかり焚きつけられた玄一の情熱と穏やかな優しさは、冷めた目線で自らの人生を見つめていた索やほたるの心を少しづずつ解かしていく。今もなお社会に残るマイノリティへの差別や偏見に絶望しそうになったときでも、玄一のほんのり前向きな言葉が未来を明るく和ませてくれたように思う。

 第5話ではほたるが、期末テストの答案用紙に「絶望してるけど/とにかくめちゃくちゃ先には/良くなってるはずだから/生きるしかない」と書いて提出する。言葉は極めてシンプルなのに、どんな説教じみたセリフよりもじんわりと温かく響く。それは、あれほど将来に諦観を抱いていたほたるが、不恰好でも前向きに現実と向き合ってくれたから。これまで当たり前のように横たわるステレオタイプに前向きに抗っていた玄一の気持ちが、自然と彼女にも伝わったように思えたのが嬉しかった。本作で脚本を務める松本優紀のユニークな言葉選びは、毎話、物語をクリスマスツリーの飾りみたいに種類豊富なキラキラで彩っている。

 現状を憂うだけではなく、たしかに良くなっている部分に目を向けて、未来への希望を提示してくれる。玄一や索のように、前向きに社会に抗おうとする気持ちに「がんばりましょう」と寄り添ってくれる人がいる。だからこそ、ドラマを観ている私たちもまた、現実の世界にほんの少しだけ期待して、この社会で生きることを「がんばろう」と思えるのかもしれない。

ぼくたちん家

現代に様々な偏見の中で生きる“社会のすみっこ”にいる人々が、愛と自由と居場所を求めて、明るくたくましく生き抜く姿を描くホーム&ラブコメディ。

■放送情報
『ぼくたちん家』
日本テレビ系にて、毎週日曜22:30~放送
出演:及川光博、手越祐也、白鳥玉季、田中直樹、渋谷凪咲、坂井真紀、光石研、麻生久美子
脚本:松本優紀、渋谷凪咲、田中直樹
演出:鯨岡弘識、北川瞳
インクルーシブプロデューサー:白川大介
チーフプロデューサー:松本京子
プロデューサー:河野英裕、西紀州、岡宅真由美
音楽:東川亜希子、神谷洵平
主題歌:「バームクーヘン」
制作協力:AX-ON
©日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/bokutachinchi/
公式X(旧Twitter):https://x.com/bokutachinchi
公式Instagram:https://www.instagram.com/bokutachinchi/
公式TikTok:https://www.tiktok.com/@bokutachinchi

関連記事