『ばけばけ』吉沢亮のコミカルな立ち回りが生むおかしみと切なさ リヨの恋心はさらに加速

『ばけばけ』恋占いで加速するリヨの恋心

 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』第44話では、松江の静かな秋景色の中で、それぞれの胸に秘めた恋心がユーモラスに、そして少し切なく揺れ動いた。

 ヘブン(トミー・バストウ)への想いを募らせるリヨ(北香那)を、なんとか遠ざけるよう錦織(吉沢亮)に頼まれたトキ(髙石あかり)。気が重いまま付き添って連れて来られたのは八重垣神社。そう、かつてトキと銀二郎(寛一郎)を結ぶことになった恋占いの池だった。紙を浮かべ、願いを込め、沈む速さで恋の成就を占うというもの。「沈め……!」と表ではつぶやくトキだが、心の奥では沈まないでと打ち消しているのがまた彼女らしい。どちらを応援しているのか自分でもわからなくなるほどの混乱ぶりだったが、最終的に池が示したのは、リヨの祈りの強さだった。

 そんなトキの落ち込みの横で、ひそかに「沈め……」と願っていたのは勘右衛門(小日向文世)だった。なんと彼も「何十年ぶりかの恋」をしているらしく、トキもリヨも思わず目を丸くする。しかし笑いものにせず、自然と背中を押す空気になるあたり、この作品の人情の柔らかさがにじむ。もっとも、司之介(岡部たかし)に知られたら面倒なことになるという点には、3人の意見が一致していた。

 その頃ヘブンの家では、肝心のヘブンの姿がない。胸騒ぎを覚えながら戻ってきたトキを遠くから「しじみさん!」と呼ぶ声が響く。突然姿を消したトキを心配してヘブンが必死に探していたのだ。いなくなったと錦織から聞き、いてもたってもいられなくなったのだという。トキは、リヨが訪ねてきたためヘブンと接触しないよう距離を置いていたことを説明するが、そこで錦織が知るのがリヨとヘブンのランデブーの企みだった。彼はあらためてトキに2人を引き離してほしいと頭を下げる。

 だが、肝心の待ち合わせ日時がわからない。手がかりは授業中、ヘブンの口から漏れた島根県庁で待ち合わせというひと言だった。錦織はなんとか阻止しようと、錦織はヘブンに駆け寄り、「こっちの方が良いのでは」と、必死に代替案を並べ立てる。だが、リヨとに街を案内してもらうことを楽しみにしていたヘブンからは「シツコイ!」と一喝され、錦織は言葉を失ってしまう。

 さらに追い打ちをかけるように、リヨがトキを訪ねてくる。ランデブーに手作り弁当を持っていきたいから、ヘブンの好物を知りたいと言うのだ。錦織はすかさず「糸こんにゃく」とトキに耳打ち。ヘブンの大嫌いな食べ物であることを隠し、リヨもすっかり信じ込むのだった。

 第44話は、恋をめぐる思惑が右往左往しながらも、そのどれもがどこか憎めず、温かい人間味に満ちていた。リヨのまっすぐすぎる恋心は時に暴走し、周囲を巻き込む小さな嵐となる。ヘブンの不器用なやさしさは、言葉の壁を越えてトキに確かに届き、だからこそトキは胸をざわつかせずにはいられない。そしてそのすべての渦の中で、錦織の焦りと必死さがコミカルさと切なさを絶妙に生み出していた。

 誰もが誰かの幸せを願いつつ、自分の気持ちに嘘をつけない。そんな恋の温度差が交差し合うことで、物語は軽やかに弾みながらも、次の波へと確かに進んでいく。『ばけばけ』が描く恋の行方はどんな結末が待っているのか。そんな期待をじんわりと膨らませる回だった。

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

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