『イクサガミ』はなぜヒットしたのか? 配信時代にジャストフィットした企画の特殊性

『イクサガミ』はなぜヒットしたのか?

 書籍の分野を見ても、古くは「滑稽本」として江戸時代後期に書かれた『東海道中膝栗毛』という、東海道を舞台にした物語のそもそもがめちゃくちゃといえる内容であり、『南総里見八犬伝』も荒唐無稽なエンタメとして人気を博していた。明治期以降、西洋的なリアリズムを土台とした近代小説が誕生したが、一方で吉川英治、山田風太郎のような娯楽エンタメ作家の流れも存在する。その意味で『イクサガミ』は、西洋がもたらした近代的な「自然主義」に反する、ある意味での典型的な“日本的”娯楽作だといえるのである。

 とはいえ、この物語が近年のさまざまな娯楽作のパッチワークであることも指摘しておかねばならない。前述した『カイジ』や『イカゲーム』は言うに及ばず、殺し合いのルールは『バトル・ロワイアル』に非常に近く、主人公・「人斬り刻舟」こと嵯峨愁二郎(岡田准一)の出自は、『甲賀忍法帖』や劇画『サスケ』、『子連れ狼』などの影響下にある漫画『あずみ』の冒頭そのままであるといえる。さらには怪力を持つ者が華麗な技を持つ剣士を力押しで圧倒し蹂躙する描写は、『ゲーム・オブ・スローンズ』の同様の対決シーンが記憶に新しい。多くの設定、描写が、既存のヒット作の寄せ集め、ごった煮だと感じるのだ。

 そういう目で見れば、かなり既視感のあるB級作品だといえるが、実際問題、ヒット作といえど、そういった作品全てを観ている視聴者は少数であるだろうし、いわんや海外の視聴者ともなれば、非常に新鮮なものとして本シリーズの物語を楽しめるのではないだろうか。Netflixの配信作品として侍同士が必死に斬り合いを繰り広げるエンタメ作品を楽しむには、それらしく見えること、エンジョイできることが重要であって、本来の歴史のリアリズムはほぼ不要であるだろう。

 美術・照明・エキストラを駆使して画面の密度を上げ、さらに清原果耶、伊藤英明、東出昌大、染谷将太、井浦新、二宮和也、玉木宏、山田孝之、阿部寛、横浜流星、宇崎竜童などなど、日本の人気俳優のショーケースかと思えるほどの超豪華キャスト陣を揃えると同時に、そこで演技合戦やアクションを繰り広げ、大人たちが大真面目に映像化していることに、時代劇を丹念に作るという方向性とは違う角度からの、凄みや説得力が加わっているのである。

 つまり本シリーズは、ライトな配信作として必要な条件を満たしつつ、そこにさまざまな“過剰さ”を提供することによってヒットに結びつけた成功作だといえるだろう。配信時代にジャストフィットした企画や俳優を集めたプロデューサーの手腕、藤井道人ら監督のクオリティを下支えする職人性、そして俳優陣の熱演が、日本のドラマシリーズとしての記録的な大ヒットという、この結果を生み出したのである。

■配信情報
Netflixシリーズ『イクサガミ』
Netflixにて世界独占配信中
主演・プロデューサー・アクションプランナー:岡田准一
出演:藤﨑ゆみあ、清原果耶、東出昌大、染谷将太、早乙女太一、遠藤雄弥、岡崎体育、城 桧吏、淵上泰史、榎木孝明、酒向芳、松尾諭、矢柴俊博、黒田大輔、吉原光夫、一ノ瀬ワタル、笹野高史、松浦祐也、宇崎竜童、井浦新、田中哲司、中島歩、山田孝之、吉岡里帆、二宮和也、玉木宏、伊藤英明、濱田岳、阿部寛
原作:今村翔吾『イクサガミ』シリーズ(講談社文庫刊)
監督:藤井道人、山口健人、山本透
脚本:藤井道人、山口健人、八代理沙
音楽:大間々昴
撮影:今村圭佑、山田弘樹
照明:平林達弥、野田真基
プロダクションデザイナー:宮守由衣
衣装デザイン:宮本まさ江
キャラクタースーパーバイザー:橋本申二
VFX:横石淳
助監督:山本透、平林克理
エグゼクティブ・プロデューサー:高橋信一
プロデューサー:押田興将
制作プロダクション:オフィス・シロウズ
企画・製作:Netflix

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