『果てしなきスカーレット』細田守史上“最大スケール”の物語 戦争と復讐をめぐる集大成に
『サマーウォーズ』(2009年)や『未来のミライ』(2018年)、そして海外でも拡大公開された前作『竜とそばかすの姫』(2021年)など、日本のアニメ映画業界を支える監督のひとり細田守にとって、約4年ぶりの最新作『果てしなきスカーレット』。
今までの作品は3年ごとに制作されてきたが、今作はさらに1年を費やしている。長期間をかけた理由は、今まで以上に壮大なスケールの物語に挑戦したからだ。
細田守作品として、海外をメイン舞台としたのは今作が初めて。今までは、“身近だけど、スケールの大きい”作品を手掛けてきたが、“死者の国”の荒野の表現や奥行なども含め、16世紀のデンマークから死者の国と、舞台自体が全体的にスケールアップしている。
そして今作で最重要となるのは、主人公スカーレットの心情や価値観の繊細な変化であるため、キャラクターの表情変化の演出として、細田作品では初めてとなるプレスコで声の収録を試みることに。プレスコとは、海外アニメではよくある手法のひとつで、先に声を撮っておいて、そこにアニメーションを肉付けしていく、アフレコとは逆のスタイルだ。それによって細かい表情変化が可能となっている。
物語の下敷きとなっているのは、ウィリアム・シェイクスピアの4大悲劇のひとつ「ハムレット」だ。主人公スカーレットもハム”レット”からとっている。その時点で復讐劇となることは言うまでもないが、そのままの復讐劇を描くのではなく、現代的な視点が大きく反映されている。ちなみに先日、第38回東京国際映画祭で上映されたクロエ・ジャオの最新作『ハムネット』(2026年春公開予定)も「ハムレット」の誕生秘話を描いている。4世紀以上も経つ今でさえも様々なクリエイターを刺激し続けるシェイクスピアの偉大さを改めて感じずにはいられない。
復讐劇というと、主人公に対して、それだけの仕打ちをした人物が対象となってくるし、実際に今作の出発点はそうだ。ところが今作が全編を通して描いているマインドは、個と個の復讐心として完結させておらず、死者の国に来てまでも、復讐心が浄化できていない、救われていない。生前の執着に捉われている。そうなってしまった背景。権力争いや憎悪を抱かせてしまうような、国の在り方、風潮、概念といったものに、人間がどう向き合うべきなのかという、個人の物語から国の、世界の物語に変化していく。つまり舞台だけではなく、テーマ自体もかつてないほどに壮大なスケールとなっているのだ。
復讐は復讐を生み続ける、その負のサイクルをどうしたら止められるのか。これは“世界が戦争を無くすにはどうしたらいいか”というテーマでもある。そしてそこに現代的視点が大きく反映されている。おそらく制作途中に起きたウクライナ戦争への意識も少なからず反映されているのではないだろうか。