さとうほなみ、“ほな・いこか”を超えた俳優に 『まんぷく』から『ばけばけ』までの躍進劇

 なみについて“底抜けに明るい性格”だと先述したが、これは訂正しなければならない。たしかに、なみは明るい。とても明るい。しかしそれは、純度100パーセントの明るさといえるものではないだろう。努めて明るく振る舞っているようにも思える。冷静で賢い人が、じつはあえて無邪気な人物を装っているときのように。

 それはそうだ。そうなのだろう。幅広い世代の者たちが見つめる「朝ドラ」というフィクションの世界だからポップに描かれてはいるが、先述しているように、なみは家族のために現在の生活を送っているのだ。何のわだかまりも抱えていないはずがない。あの笑顔の裏側に、じつは「心が折れそうなとき」が隠れているのだ。これらのことを踏まえたうえで『ばけばけ』を観ると、作品の印象は変わってくるはず。物語はある種の深みを増す。そんな役割を、さとうほなみが担っているのである。

『天使の集まる島』©2025「天使の集まる島」製作委員会

 この『ばけばけ』での好演に続き、12月からは舞台『シャイニングな女たち』に参加するさとうほなみ。現在は映画『天使の集まる島』が公開中で、こちらではマレーシアのペナン島にあるジョージタウンを物語の舞台とし、自由奔放な天使を演じている。夏クールにはドラマ『こんばんは、朝山家です。』(朝日放送テレビ)にレギュラー出演していたが、いったいどうすれば音楽活動と並行してこれだけのパフォーマンスを披露し続けられるのだろうか。“ほな・いこか”と“さとうほなみ”は別人ではないかと疑いたくなるレベルである。

 ミュージシャンや芸人などの非職業俳優が演技に挑む際、本人の持っているキャラクターをそのまま生かすことが求められるケースが多い。だが、さとうほなみの場合は違う。『ばけばけ』で求められているのは“キャラクター”ではなく、あきらかに“演技”だ。幼い頃から演技に親しんできたらしいが、本格的な俳優デビューは2017年放送の『黒革の手帖』(テレビ朝日系)でのこと。あの頃は「ドラマーのほな・いこかがドラマに!」という話題性のほうが強かったが、現在では純粋に俳優としての彼女を支持している人たちが多くいるはずである。私もそのひとりだ。

『花腐し』©2023「花腐し」製作委員会

 朝ドラ『まんぷく』(NHK総合/2018年度後期)に少しだけ登場した際にはまだ、その話題性のほうが前に出ている印象があった。けれどもその後、『窮鼠はチーズの夢を見る』(2020年)、『彼女』(2021年)、『愛なのに』(2022年)といった映画作品で重要な役どころを務め上げ、ヒロインに扮した文芸映画『花腐し』(2023年)で現在の演技者としての地位を確立したように思う。続く三浦大輔の作・演出による『ハザカイキ』(2024年)では、主人公の恋人という役どころを好演。観客の視線から逃れられない演劇作品だからこそ、さとうほなみの俳優としての力量と器の大きさが生々しく現前化し、その場に居合わせた私たちは触れることができた。いまでは「この人が出ているなら観たい」と、心から思える存在である。『ばけばけ』が楽しみな理由は、ここにもあるのだ。

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

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