『死霊館 最後の儀式』はホラーとして物足りない? シリーズの締めくくりに与えられた意味

 「心霊研究家」夫妻、エド&ロレイン・ウォーレンをモデルに、夫妻が経験したという超常現象・怪奇事件を題材にした、12年の歴史を持つホラー映画、『死霊館』シリーズが、この度公開された『死霊館 最後の儀式』をもって、フィナーレを迎えた。

 「ホラー・マスター」の異名をとっていたジェームズ・ワン監督が、プロデューサーのピーター・サフランらとともに立ち上げた『死霊館』シリーズ。『死霊館』(2013年)の続編シリーズや、恐怖の人形アナベル、悪魔のシスターに題材を絞ったスピンオフシリーズも製作され、「死霊館ユニバース」と呼ばれるくらいに、その作品世界は拡大している。

 本作は、そんな『死霊館』ユニバース史上最大のオープニング記録を樹立。最後となるウォーレン夫妻の物語を華々しく飾ることとなった。その内容とは、果たしてどんなものだったのだろうか。ここでは、最終章の内容を追いながら、ホラー作品としての率直な評価や、『死霊館』シリーズの締めくくりに与えられた意味について考えていきたい。

※本記事では、『死霊館 最後の儀式』のストーリーを明かしています

 シリーズのなかで、さまざまな怪異と対峙してきた、ロレイン・ウォーレン(ヴェラ・ファーミガ)と夫のエド(パトリック・ウィルソン)。最愛の娘ジュディ(ミア・トムリンソン)が大人へと成長した1986年には、心霊研究の人気が廃れ、注目されなくなってきていて、2人がいよいよ引退を決意する状況が描かれる。

 ロレインもエドも、新たな仕事を受ける気はなかったものの、やはり今回も成り行き上、ペンシルバニア州のある一家を襲った、凄まじい怪現象の数々に向き合うこととなる。そこでロレインは、若かりし頃に自分を襲い、生まれる寸前の娘ジュディの命を奪おうとした、邪悪な存在との最悪の再会を果たしてしまうのだ。

 悪魔の修道女ヴァラクや、アナベル人形など、インパクトの強い怪異のキャラクターが登場し、人気を牽引してきた本シリーズ。今回、実話に基づく“呪物”として登場するのが、「呪いの鏡」である。そのパワーは絶大で、複数の幽霊を使役して家族を襲わせる。また、ジュディの恐怖心を映し出し、あのアナベル人形さえも登場させる。

 その力の強大さを最も示しているのが、夫妻の協力者であり友人でもあるゴードン神父が、司教管区のオフィスにて呪いの力に操られる場面だ。神の力が及ぶはずの場所にすら容易く侵入し、十字架を燃やして聖職者を追いつめる呪いの力……。現場から離れたレストランや試着室にも怪異が“出張”してくるように、もはや安全な場所などないことを強調する。

 とはいえ呪いの鏡自体は、これまでのアクの強い面々と比べると、かなり地味なことは否めない。なにせ、“鏡”なのだ。フレームに象られた装飾が、ややキャラクター味を感じさせるくらいである。だから、本作に現れるアナベルの役割は、ルーキーのインパクト不足のためにベテランスターが友情出演してくれたような構図になっている印象はぬぐえないかもしれない。

 だが最終的には、そんな鏡が業を煮やして荒ぶり、物理的な攻撃をしてくる。この展開は、さすがに予想外だった。「精神系の攻撃だけじゃねえんだぞ」と、呪物そのものが自ら殴りに来るというのは、近年まれに見る怪異表現だといえよう。とはいえ、だからといってヴァラクやアナベルのように、人気キャラクターとして映画シリーズが作られることには、おそらくならないのではないか。

 本作のホラー表現の数々は、しっかりと怖いことは確かではあるのだが、やや物足りないというのが正直なところだ。というのも、やはり『死霊館』シリーズが圧倒的だったのは、第1作、第2作を撮ったジェームズ・ワン監督の発想力の凄まじさにあったからだ。

関連記事