『もしがく』“トニー”市原隼人の新たな一面が開花 “久部版『夏の夜の夢』”舞台裏劇の妙味

 風営法改正のあおりを受けて経営難に陥ったWS劇場を、小劇場ブームの流れに乗じて芝居小屋へと変え、“久部版『夏の夜の夢』”を上演することを宣言した久部(菅田将暉)。10月15日にフジテレビ系で放送された『もしがく』こと『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』の第3話は、ストーリー上の大きな進展よりも、数日後に幕が上がる舞台の準備に徹する様子を描くことに注力されており、ある種の“舞台裏劇”としての妙味にあふれている。

 蓬莱(神木隆之介)が言っていたように、「シェイクスピアの書いたものをそのままやると長すぎる」ため、久部は上演用台本を夜なべして書き上げる。そしてWS劇場のダンサーやスタッフたちにそれを配り、配役を決める。劇場の倉庫から衣装や舞台装置に使えそうなものを見つけだし、劇場のオーナーであるジェシー(シルビア・グラブ)に啖呵を切る(このオーナーが演劇に詳しそうな点は、後々で役立つのだろうか)。演者たちはセリフを覚えることに悪戦苦闘しながらも、早速立ち稽古へと臨むのである。

 久部を除いたら演劇経験のない者たちしかおらず、読み合わせや立ち稽古がスムーズに進むはずもない。配役に不平を漏らす者もいれば、セリフを覚えていなかったり過度なアドリブをいれようとしたり。実際に久部が演技を見せても手応えはなし。この感じ、学生時代に自主映画をやっていた筆者としてはちょっぴり覚えがあるもので、そのなかでも積極的に挑もうとする者がいたり、期待以上に“目覚める”者が現れたりした時のうれしい驚きを含め、久部の心情に共感せずにはいられない。

 それにしても、台本を読むのもままならなかったトニー(市原隼人)が、久部に連れられて行ったジョン・ジョン劇場で“ライサンダー対決”に挑む一連は見事であり、トニーというキャラクター、ひいては市原という役者の使い方として絶妙である。黒崎(小澤雄太)からの挑発を、なんとかごまかしてやり過ごそうとする久部の悔しさを即座に汲み取り、綺麗に磨き上げた靴で踵を返す。そして「天上天下」の『夏の夜の夢』でライサンダーを演じる役者の眼前に迫り、情感たっぷりにセリフを口にする。用心棒として腕力を武器にしていた彼が、演技という新たな武器を手に入れる。その迫力たるや。

 一方で、「コントオブキングス」のフォルモン(西村瑞樹)が演じるオーベロンが、パトラ(アンミカ)演じるタイテーニアから浮気を責められる場面だろうか、アドリブで蹴りを入れられたことで機嫌を損ねてしまう立ち稽古での一幕も秀逸。他人の意見をなかなか受け入れられない性格のフォルモンが、久部や蓬莱の言葉を受けて考え込み、相方のはるお(大水洋介)に自分たちの持ちネタの役を入れ替えることを求める。ここで彼が『夏の夜の夢』よりも持ちネタを試すあたり、芸人としての矜持を保ったままで新たな扉を開いたのだと見ることができよう。

 そんななかで、八分神社の樹里(浜辺美波)は神主の父・論平(坂東彌十郎)に対し、神社を廃社にすることを提案している。仮に八分神社が取り壊されるとして、それを八分坂の町が移り変わっていくことの象徴として物語に作用させるのか、それともシェイクスピアに多少なりとも関心がありそうな樹里を久部の劇に引き込んでいくきっかけとしてのものになるのか。いずれにしても、これは今回のエピソードで見られた数少ないストーリー上の進展の兆候である。

もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう

1984年の渋谷を舞台に、脚本家・三谷幸喜の半自伝的要素を含んだ完全オリジナル青春群像劇。「1984年」という時代を、笑いと涙いっぱいに描いていく。

■放送情報
『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』
フジテレビ系にて、毎週水曜22:00~22:54放送
出演:菅田将暉、二階堂ふみ、神木隆之介、浜辺美波、戸塚純貴、アンミカ、秋元才加、野添義弘、長野里美、富田望生、西村瑞樹(バイきんぐ)、大水洋介(ラバーガール)、小澤雄太、福井夏、ひょうろく、松井慎也、佳久創、佐藤大空、野間口徹、シルビア・グラブ、菊地凛子、小池栄子、市原隼人、井上順、坂東彌十郎、小林薫ほか
脚本:三谷幸喜
主題歌:YOASOBI「劇上」(Echoes / Sony Music Entertainment (Japan) Inc.)
音楽:得田真裕
プロデュース:金城綾香、野田悠介
制作プロデュース:古郡真也
演出:西浦正記
制作著作:フジテレビ
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