『ばけばけ』子役・福地美晴のけなげな演技が胸を打つ “しじみ汁”に託された家族の願い

NHK連続テレビ小説『ばけばけ』第4話では、失踪していた司之介(岡部たかし)が発見されながらも家に戻らず、松野家の空気が一変していく様子が描かれた。
日常の中心である食卓から笑顔が消え、家族の結びつきが脆くも揺らいでいく。娘・トキ(福地美晴)が必死に父を呼び戻そうとする姿と、なお帰れない父の背中。そこにあるのは単なる家庭の危機ではなく、人が生きるための誇りと弱さの葛藤だった。勘右衛門(小日向文世)は「武士には武士の死に方がある」と口にし強がるものの、何日経っても戻らない息子に苛立ちと不安を募らせる。ちゃぶ台を囲む場面も、以前のような賑やかさはなく、箸の音だけが重く響く。父の不在によって、家族を結びつけてきた食卓はその役割を失いつつある。

そんなある日、登校途中のトキは宍道湖のほとりに司之介の姿を見つける。しかし、目が合った瞬間に司之介は逃げ出してしまう。「帰るけん!」と必死に声を張るトキに、司之介は背を向け続けるばかり。返事のない司之介を前に、トキの表情には戸惑いと寂しさを募らせるが、司之介にも事情があることはうっすらと感じていた。そんな司之介の気持ちを変えたのはトキの「美味しくないけん。しじみ汁」という言葉だった。それはただ一緒に食卓を囲みたいという幼い少女の願い。ささやかな日常こそが、トキにとって何よりの幸せなのだ。トキはここで初めて感情をあらわにし思いをぶつけたのを見たが、福地美晴の演技が際立った。これまで明るさの象徴だった存在が、涙をこぼし声を震わせる。無邪気さと成長のはざまで揺れるけなげな姿が、観る者の胸に深く刻まれる場面となった。

そこでようやく司之介が帰れない理由を口にする。兎の相場が下落し、多額の借金を抱えてしまったのだ。家族を養ってきた誇りを失い、父としても武士としても顔向けできない。岡部たかしが演じる司之介の背中には、自責と無力感が刻まれていた。父の窮状を知ったトキはショックのあまり気を失ってしまう。

翌朝の食卓に並んだのは兎の汁物。愛でていた兎の不在を受け入れられず、涙をこぼすトキの姿は、家族を結びつける象徴の喪失そのものだった。彼女が求めたのは慰めでも励ましでもなく怪談話。現実を少しずらす物語にしか心を支える余地を見いだせない子どもの心情が、作品のタイトルを体現していた。
一方、遠くアメリカではレフカダ・ヘブン(トミー・バストウ)が絶望の中にいる姿が描かれる。画面に示された「2人が出会うまで5612日」という言葉は、国内の家庭の物語と異国の青年の孤独がいずれ結びつくことを予感させる。食卓の不和と世界の絶望を並べて描くことで、ドラマの広がりがより大きく感じられる場面だった。やがて訪れるであろう出会いが、この物語にどのような変化をもたらすのか、思わず先を見たくなる。
■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK





















