『ばけばけ』に感じる並々ならぬ照明のこだわり 笑いの中に潜む明治の世の光と影

『ばけばけ』感じる並々ならぬ照明のこだわり

 司之介(岡部たかし)が商いをはじめて、松野家の食卓が明るくなったNHK連続テレビ小説『ばけばけ』第3話。一方で、明治の世の光と影も見える回となった。

 トキ(福地美晴)の親戚にあたる雨清水傳(堤真一)が髷を切った選択が影響したのだろうか。司之介も武士という生き方に区切りをつける。かつての部下・金成初右衛門(田中穂先)の勧めを受けて、うさぎを仕入れて販売する商いを始める。5円で仕入れたうさぎを600円という破格で販売する商い。600円は、当時の価値で小学校に100年通える額に相当するという。ボロ儲けにもほどがある。松野フミ(池脇千鶴)は、商い自体には懐疑的だが、司之介の考え自体は否定できない様子だ。

 勘右衛門(小日向文世)は、司之介が商いを始めることに反対をするが、司之介と並んで土下座をするトキを前にして、ほだされてしまう。生きていくためには、武士の誇りを捨てるしかないことを、勘右衛門はどこかで理解しているのだろう。

 無事開始した商いは、200円という上々の売上を記録する。第1話から薄暗さと陰影が際立つ画面が特徴の『ばけばけ』だが、光が当たる庭にいる司之介の姿や、光に照らされた司之介とフミの会話からは、商いが松野家を明るくしている様子が象徴されているようだった。トキの夢を応援したいという司之介の純粋な気持ちは、さらなる投資へとつながる。できる限り投資をするという判断は、令和の現在から見ても危険すぎるが……。同じく、トキの夢を応援したいフミは、不安な表情を浮かべながらも司之介を止めることができない。

 収入が生まれたことで、松野家の食卓は豪華に。おかずの品数が増えようと、司之介とトキが最初に手をつけるのは、相変わらずしじみ汁だ。一口飲み、「はあ」と一息つくトキの声に、司之介の声が重なる。武士の子どもがはしたないと咎め続けてきた司之介だったが、収入を得て家族を苦労させずに済みそうなことに一息つきたい思いだったのだろう。司之介は、自分も「はあ」という声を出しながらも、トキを咎めていた。武士の生き方とは完全に決別できないまでも、少しずつ変わろうとしている心境の変化が感じられた。

 明治の世にほんの少し迎合したことで、明るくなった松野家。一方で、街に目を向ければ、明治維新による社会のほの暗い変化が見てとれた。トキは、街で借金のかたとして遊郭に売られる女性・なみ(さとうほなみ)を目にする。必死に逃げ惑うなみであったが、抵抗虚しく、橋の向こうへ連れて行かれてしまった。その後ろには、同じく捕えられて橋の向こうへ連れていかれる人々もいる。そのなかには、うさぎを斡旋した人らしき姿も。

 明治維新とほぼ同時に生まれたトキ自身は、生まれてはじめて自分も家族も笑顔でいられる日常を過ごせているが、その影には金に困り身売りされる女性や貧しい暮らしを余儀なくされる人々がいる。第3話は、明治維新による人々の心境の変化だけでなく、社会の光と影を描く回となった。

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

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