『あんぱん』アンパンマンがついにテレビへ 主題歌に刻まれたやなせたかしの哲学

『アンパンマン』がついにテレビへ。NHK連続テレビ小説『あんぱん』128話では、『アンパンマン』のアニメ化企画が動き出した。
嵩の自宅を訪れたのは、テレビプロデューサーの武山(前原滉)だった。武山の『アンパンマン』への愛情は、確かなものだった。『アンパンマン』のキャラクターを愛し、それぞれのキャラクターの初登場回の掲載号も覚えているほど。嵩は喜びながらも、テレビには懐疑的な様子。『アンパンマン』には、嵩がこれまでの人生で培った価値観が存分に込められているからこそ、簡単には人に預けられないという思いがあるのだろう。

嵩に断られても、武山は諦めなかった。幼稚園で見た手垢まみれのアンパンマンの絵本を見た経験から、企画者としての客観的な視点を持ちつつも、弱くてカッコ悪いところを尊敬せずにはいられないという個人的な思いもある武山。そのファンとしての愛情は、アンパンマンの最初のファンであるのぶ(今田美桜)の心に届く。その話を聞き、嵩は武山のもとでのアニメ化を了承。制作者としての不安は持ちつつも、アンパンマンが紙の上で生まれた20年前から愛し続けたファンである妻の言葉なら信用できると感じたのだろう。
史実上でも、この時期アンパンマンのアニメ化を望む多数の企画があったという。各局の担当者は熱心なものの、上層部からOKが出ない。そのなかで唯一諦めなかったのが、日本テレビのプロデューサーだったそうだ。理由は、ドラマの展開と同じ。手垢まみれになるほど、子どもたちから愛されたアンパンマンをアニメにして、もっとたくさんの人に見てもらいたい。当時の子どもたちのアンパンマンへの愛と熱心なプロデューサーのおかげで、令和になった現在もアンパンマンは子どもたちから愛されている。

アニメ化に際し、嵩は「アンパンマンのマーチ」の歌詞を制作。ヒントをくれたのは、柳井寛(竹野内豊)の言葉と千尋(中沢元紀)の存在だった。千尋は、何のために生まれたのかを自覚し、それを全うしたいと願いながら、亡くなった。千尋のように戦争で命を落とした者たちへ思いを馳せながら書かれたのが、「なんのために生まれて、なにをして生きるのか」から始まる一節だ。お腹を空かせた人に顔のあんぱんを分け与えるという使命を全うするアンパンマンの精神を感じさせながらも、すべての人に「なんのために生まれ、なにをしたいのか」を問いかける歌詞だ。嵩が若い頃から悩みながら培ってきた哲学が詰まっている。
嵩の歌詞は生と死への意識が強く表れていたが、武山からの意見を受けて歌詞を変更。生と死の部分を、少しマイルドにした表現へと書き換える。譲れないこだわりを持ちながらも、アニメ『アンパンマン』を見る子ども、この仕事に関わる者を喜ばせるために、必要であれば譲歩し、変更を受け入れる。寛の「人生は喜ばせごっこや」という言葉を思い出した。

制作には2年の月日を費やし、ついにアニメ『それいけ!アンパンマン』の放送へ。やなせたかしと小松暢夫婦がモデルになる時点で分かっていたことではあるが、終盤で『アンパンマン』のアニメ化という大きな展開がやってきた。ドラマとしては、『アンパンマン』のアニメ化がゴールといえる。嵩ものぶもどんなに『アンパンマン』を愛し、大切にしたいと思っていても、すでに60代を超えている。『アンパンマン』を武山に託してアニメ化をすることは、後世に長く『アンパンマン』の精神性を伝えるためにも必要なことだった。第128話は、嵩とのぶが命をかけて成し遂げたいと願った使命のバトンタッチの回だったのかもしれない。
■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、高橋文哉、眞栄田郷敦、大森元貴、戸田菜穂、戸田恵子、浅田美代子、吉田鋼太郎、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子ほか
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK





















