何度でもレゼに逢いたい! 『チェンソーマン レゼ篇』はアニメ史に残る“楽しい”破壊作

 𠮷原監督に代わって劇場版のアクションディレクターを務めたのが、業界注目の若手アニメーターである重次創太。本作では、町全体、あるいは高層ビル街まるごと破壊の渦に巻き込むようなバトル・シークエンスが見応えたっぷりに展開するが、優れたアクションアニメになくてはならないもの……スケール感のある空間把握の的確さと、超現実的でありつつ実感を伴った動きのダイナミズム、そして「一瞬ワケがわからなくても気持ちよさを優先できる思い切りの良さ」が全編にしっかり発揮されている。それもただド派手にすればOKみたいな意味不明かつもったいない暴れっぷりではなく、暴走してもすぐ「伝わる」ようにコントロールが効いているところが素晴らしい。

 もちろん、単に痛快なだけではない。破壊の果ての徒労感、不毛感、滑稽さもしっかり見せるのが『チェンソーマン』という作品の魅力だ。しかも今回はあの『レゼ篇』なので、切なさも寂しさも重量級である。見終わってしばらくしたら、きっとまた「彼女に逢いたい」と思うはずだ。

 いま現実に世界各地で起きている血も涙もない破壊(=戦争)のことを思うと、手放しで喜んでいいのか、と立ち止まってしまう気持ちもわかる。そういう感情はとても大事だ。しかし、机の上に地図を広げ、安全な場所から指示を出し、人々の日常を完膚なきまでに破壊している「あいつら」もまた、この映画を観て決して喜ばないだろう。なぜなら自分たちのエクスタシー=国家の意志や権力の誇示とは無関係に、勝手に破壊と混乱をぶちまける名もなき個人など、いちばん許すはずがないからだ。

 チェンソーマンたちは、社会に見捨てられ、国家に搾取され、最底辺の人生に慣らされる若者の象徴である。だから、彼らの破壊を応援し、爽快な気持ちを抱いても、それは否定しなくていいと思う。映画館で毎日の破壊衝動やフラストレーションを解消して、スカッとして現実に戻れることこそ庶民の強みだ。スカッとしつつ「自分はたぶん巻き込まれる側の人間なんだろうな……」という直感をさそうブラックユーモアもまた、『チェンソーマン』という作品の魅力である。

■公開情報
劇場版『チェンソーマン レゼ篇』
全国公開中
キャスト:戸谷菊之介(デンジ)、井澤詩織(ポチタ)、楠木ともり(マキマ)、坂田将吾(マキマ)、ファイルーズあい(パワー)、高橋花林(東山コベニ)、花江夏樹(ビーム)、内田夕夜(暴力の魔人)、内田真礼(天使の悪魔)、高橋英則(副隊長)、赤羽根健治(野茂)、乃村健次(謎の男)、喜多村英梨(台風の悪魔)、上田麗奈(レゼ)
原作:藤本タツキ『チェンソーマン』(集英社『少年ジャンプ+』連載)
監督:𠮷原達矢
脚本:瀬古浩司
キャラクターデザイン:杉山和隆
副監督:中園真登
サブキャラクターデザイン:山﨑爽太、駿
メインアニメーター:庄一
アクションディレクター:重次創太
悪魔デザイン:松浦力、押山清高
衣装デザイン:山本彩
美術監督:竹田悠介
色彩設計:中野尚美
カラースクリプト:りく
3DCG ディレクター:渡辺大貴、玉井真広
撮影監督:伊藤哲平
編集:吉武将人
音楽:牛尾憲輔
配給:東宝
制作:MAPPA
主題歌:米津玄師「IRIS OUT」(Sony Music Labels Inc.)
エンディングテーマ:米津玄師、宇多田ヒカル「JANE DOE」(Sony Music Labels Inc.)
©2025 MAPPA/チェンソーマンプロジェクト ©藤本タツキ/集英社
公式サイト:https://chainsawman.dog/
公式X(旧Twitter):@CHAINSAWMAN_PR

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