いつからだって遅くない! 『ひゃくえむ。』×『ラスピ』で夢の見方を教えてもらった9月

『ひゃくえむ。』と『ラスピ』は是非セットで

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、KANTAとKEIの亡霊・石井が『ひゃくえむ。』をプッシュします。

『ひゃくえむ。』

 9月19日、約3カ月間にわたり金曜日の夜を楽しませてくれたオーディション番組『THE LAST PEACE』(通称『ラスピ』)が最終回を迎えました。本日が公開初日の映画はたくさんあり、このコーナーも金曜日公開作を紹介する趣旨のものなのですが、私の頭の中は『ラスピ』のことでいっぱいです。

 「夢を見にくい現代に生きる10代に、夢の見方を教えるプロジェクトを作りたい」というSKY-HIの思いから始まった『ラスピ』。BE:FIRST、MAZZELに続く、BMSGの第3のボーイズグループとして、STARGLOWが誕生しました。

 正直、BE:FIRSTを生み出した約5年前の『THE FIRST』があまりにも強烈で思い入れのあるオーディション番組だったこともあり、序盤はそのときほどのめり込めない部分がありました。また、テーマに掲げている「夢の見方」に、「“見方”も何もないだろ〜」と斜に構えてしまう自分がいたのです。

 しかし、番組を追ううちに気づかされました。SKY-HIが危惧していたとおり、現代は冷笑や比較の目線、経済的な不安、現実的なキャリア志向などが「夢を見ること」自体を難しくしています。自分もかつて「何者かになる」という夢を持っていたはずなのに、いつしかそれを信じられなくなる側になってしまっていたんだと。ひたむきに自分を信じて努力し続ける参加者たちの姿、彼らを導くSKY-HIをはじめとしたスタッフたち大人の姿は、あの頃の自分を思い出させてくれるエネルギーにあふれていました。「夢をどう見続けるか」という問いかけは、参加者の単純な結果以上に、成長と関係性のドラマとして鮮やかに浮かび上がってきたのです。

 この「夢の見方」というテーマを考えるとき、自然と思い出したのが『ひゃくえむ。』でした。陸上競技を舞台にしたこの作品は、100メートルというわずかな距離を極めようとする若者の物語です。天才と凡人、挫折と栄光が織りなすストーリーは、濃密な青春の刹那を描き出します。そして、主人公たちが走り続ける姿は、夢を「到達点」ではなく「走り続ける行為そのもの」としてとらえているように思えます。

 『ラスピ』と『ひゃくえむ。』。まったく異なる二つの物語ですが、そこに描かれている「夢の見方」は共鳴しているように思いました。夢は叶うかどうかではなく、どう向き合うか、どう更新し続けるかに価値があるのだということ。そして、それは10代だから、若者だから見られるものではなく、いくつになってもいつからでも、自分がどうしたいかにあるものだと教えてもらいました。

 魚豊さんの漫画でも圧倒的だった『ひゃくえむ。』の描写は、『音楽』の岩井澤健治監督によってさらに凄まじいものになっています。主人公・トガシとライバルとなる小宮、そのほかの登場人物たちも声優陣の熱演もあいまって、実在する人物のようにセリフのひとつひとつがとても生々しいです。

 『ひゃくえむ。』の主人公たちがゴールを越えても走り続けるように、『ラスピ』で誕生したSTARGLOWも、惜しくもメンバーになれなかった参加者の始まりもまた、新しい夢の幕開けです。夢の正しい答えはなくとも、夢をどう描き続けるか。そして、夢を追いかけ続けることの尊さを改めて教えてもらった9月でした。

■公開情報
『ひゃくえむ。』
全国公開中
キャスト:松坂桃李、染谷将太、内山昂輝、津田健次郎
原作:魚豊『ひゃくえむ。』(講談社『マガジンポケット』所載)
監督:岩井澤健治
脚本:むとうやすゆき
キャラクターデザイン・総作画監督:小嶋慶祐
美術監督:山口渓観薫
音楽:堤博明
プロデューサー:寺田悠輔、片山悠樹、武次茜
アニメーション制作:ロックンロール・マウンテン
製作:『ひゃくえむ。』製作委員会
配給:ポニーキャニオン/アスミック・エース
©魚豊・講談社/『ひゃくえむ。』製作委員会
公式サイト:https://hyakuemu-anime.com
公式X(旧Twitter):https://x.com/hyakuemu_anime

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