『あんぱん』のぶが信じ続ける“アンパンマン”の力 “逆転しない正義”まであと少し

『アンパンマン』の絵本がついに世に出た。嵩(北村匠海)は『やさしいライオン』の映画公開、八木(妻夫木聡)の会社での『詩とメルヘン』の編集長就任と、活躍の場が広がっていく一方で、のぶ(今田美桜)は『アンパンマン』にこだわり続けている。
『アンパンマン』を子どもたちに読み聞かせる場を作るも、子どもたちの反応は芳しくない。のぶと嵩が幼かった頃のようにパン自体が珍しい時代も過ぎ、戦時中のように食べ物に困ることもなくなった。『アンパンマン』から、困ったときに食べ物をもらえるありがたさを受け取れる子どもたちは少ないのだろう。あんぱんより甘くて冷たいアイスクリームを、太ったおじさんよりカッコいいヒーローを子どもたちは求める。逆にとらえれば、子どもたちが自分の希望を口に出せる平和な時代になったということだ。
それでも、『アンパンマン』の魅力を伝えたいと強く望むのぶ。これまでも嵩を応援することはあったが、ひとつの作品にここまで執着するのは珍しい。幼い頃、落ち込んだときに食べた屋村(阿部サダヲ)のあんぱんの味からもらったみなぎるような元気と、あんぱんを食べて元気になった人を見てきたのぶの個人的な経験が、『アンパンマン』の普及活動に繋がっている。嵩のためというよりも、自分のために行動しているように見える。蘭子(河合優実)がのぶにかけた「思い切り走るしかない」という言葉。職を失い自分の道を見失っていたのぶが、“逆転しない正義”を広めるためにできること、やりたいと思えることが、『アンパンマン』の普及活動なのだろう。

時代は昭和48年になり、それぞれの装いも変化。嵩は『詩とメルヘン』の編集長に就任し、詩の公募をおこなう新しい投稿雑誌を刊行した。詩人としても活躍した嵩が、投稿雑誌をきっかけに漫画家の夢を真剣に志したからこそ企画できた雑誌だ。漫画にこだわることなく、自分の力と人脈でできることは何なのかを、広い視野で考えている証拠なのかもしれない。漫画へのこだわりを手放し、肩の力を抜いたことで、嵩の表情から無駄な焦りが消え、ゆるくなったように見える。

一方で、『アンパンマン』については後回しになっている様子。新作を書くにしても何かが足りない。この時点での『アンパンマン』は、現在の『アンパンマン』のように顔があんぱんでできているのではなく、おじさんがあんぱんを配っているスタイルだ。このアイデアが『アンパンマン』の突破口になるのだろうか。「いくつになっても挑戦はできる」という嵩の言葉の通り、真の『アンパンマン』誕生は目前に迫っているのかもしれない。
嵩に秘密で読み聞かせ活動を続けていたのぶの姿を、嵩は偶然目にする。生みの親である嵩が『アンパンマン』の可能性を信じられないこと、最初のファンであるのぶが『アンパンマン』の価値を信じ続けていることは、作り手とファンの心理として自然なことなのかもしれない。
私たちは、のぶの言葉通り『アンパンマン』が高い空をどこまでも飛び、世界中から愛されることを知っている。“逆転しない正義”を求めるふたりの夢が形になるまであと少し。
■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、高橋文哉、眞栄田郷敦、大森元貴、戸田菜穂、戸田恵子、浅田美代子、吉田鋼太郎、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子ほか
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK





















