『あんぱん』河合優実と妻夫木聡が放つ大人の色気 『花子とアン』に通じる“恋の描写”

9月2日に放送された『あんぱん』(NHK総合)第112話では、暗中模索の日々から抜け出すきっかけをつかんだ。
独創漫画派の世界旅行に誘われなかった嵩(北村匠海)。たくや(大森元貴)や健太郎(高橋文哉)に慰められるが、「僕はみんなから軽く見られてるんだよ」と落ち込んでしまう。代わりにのぶ(今田美桜)が怒りをぶつけるが、嵩の気持ちは晴れない。

嵩のモヤモヤは仲間外れにされたことが引き金ではあったが、本当の原因は嵩自身にあった。「漫画家としての信念があったら、仲間外れにされたぐらいで落ち込まない」と自身を振り返る嵩は、のぶに向かって「頼まれたら断れないから、いろいろな仕事をやってきたけど、全部中途半端」「どうしたらいいかわからない」と胸のうちを吐露する。
嵩の話を聞いたのぶ。恒例の「たっすいが」が炸裂するかと思ったが、のぶは嵩に「行くで」と一言。連れて行かれたのは神社の石段で、「よーい、ドン!」と言ってのぶは駆け出す。久々にのぶの全力疾走を目にすることができた。戸惑う嵩に、ここで「たっすいがはいかん」が飛び出す。息をつく嵩は、頬が上気して、心なしか表情も晴れる。

のぶは父・結太郎(加瀬亮)の言葉を引いて、「嵩は足が遅いき。いごっそうになれ」と励ました。「いごっそう」とは「頑固で大胆不敵に己を貫く」という意味。嵩が以前、寛(竹野内豊)から言われた言葉でもある。要は、堂々と自分を貫けということだ。嵩に必要だったのは前に進むためのきっかけで、のぶはそれをわかっていたから、言葉ではなく、率先して示すことで嵩の背中を押した。
晴れ間のシーンと対照的だったのが、中盤で描写された雨の日のエピソード。主役は蘭子(河合優実)と八木(妻夫木聡)だ。突然訪ねてきた八木は、顔を見せない蘭子を気にかけていた。記事が載った雑誌を届けるという名目だが、八木の口ぶりはいつになく真剣で、斜に構えたいつもの八木と違う。余裕がなく、若干憔悴しているようにも見える。
差し向かいで話す二人の間に、ぎこちない空気が流れる。ここからは、演出と映像表現によって物語が進んでいく。豪(細田佳央太)の印半纏に視線をやった八木は、蘭子の心を占めるものを察しただろう。雷が鳴る不穏な空気。ずっと前に買ったけれど、開かないジャムの瓶は、心の奥に押し込めた本心のようである。八木がそれを開け、そうしているうちに雨が降り出す。
事細かに説明するのも野暮だと思うが、八木への思いに気づいた蘭子は、意図的に八木と会うのを避け、八木もそれを察したから、蘭子のもとへ足を運んだ。去っていく八木の後ろ姿に、この二人はこれで終わりと思わせた後で、しっかり雨に仕事をさせる。
思い合う二人が雨の中抱き合うシーンは、『花子とアン』(NHK総合)でもあって、花子(吉高由里子)と村岡(鈴木亮平)は、持っていた傘を手から落として、思いを確かめ合った。『あんぱん』で、傘の下の2人に何があったかは視聴者の想像に任されている。
■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、高橋文哉、眞栄田郷敦、大森元貴、戸田菜穂、戸田恵子、浅田美代子、吉田鋼太郎、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子ほか
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK






















