インド映画を愛する人も必見 『灼熱のカスカベダンサーズ』は『クレしん』に刻まれる快作に

『映画クレしん』最新作のインド映画愛

 このスーパー刑事兄弟と暴君ボーちゃんのキャラが素晴らしすぎて、ほかのゲストキャラが若干かすみがちではある。今回のヒロインは、現地のティーンアイドルとして人気を博すアリアーナ(CV:瀬戸麻沙美)。一切の迷いなく「虚栄の王」への道を突き進むボーちゃんとは、合わせ鏡のようなポジションも兼ねていて、善悪どちらにも振れる可能性を持った人間くさいキャラクターとして魅力的だ。そういう意味では『クレヨンしんちゃん 爆盛!カンフーボーイズ〜拉麺大乱~』(2018年)のヒロイン・玉蘭の系譜にも連なる。

 また、ボーちゃんの暴走を図らずも手助けしてしまう若き大富豪・ウルフ(CV:賀来賢人)も、ボーちゃんの大物ぶりを引き立てる存在だ。ひたすら薄っぺらく品がないテック成金という人物像は、ある意味、世界の富裕層のリアルを的確に描いているのかもしれない。本物のタイクーンである暴君ボーちゃんの前では雑魚扱いという不憫さだが、最後は意外な人物とエモーショナルな掛け合いを披露する。

 インド映画由来のネタだけでなく、映画だけでは得られないような「旅情」が随所に織り込まれているのも、本作の大きな魅力。広場の喧騒、夜明けのターミナル駅、市井の人たちとの触れ合いなど、インド現地にロケハンしたスタッフの「旅の実感」が織り込まれたような描写が楽しい。特に、いろいろあって独りぼっちになってしまったしんのすけが、見知らぬ異国の町の日常に羨ましいほどの自然体で溶け込んでいくシークエンスが印象深い。今後、海外旅行にも興味を持つであろう子どもたちにぜひ観てほしい場面だ(一方、旅慣れてなさ満点のマサオくんが辿る苦難の道のりも抱腹絶倒)。

 ここでフラッシュモブとともに披露されるのが、「オラはにんきもの」インドバージョン。2代目しんのすけ声優・小林由美子の奔放な歌いっぷりには、初代・矢島晶子が築き上げた“しんちゃん像”からの美しい継承を感じる。いまや違和感を唱えるファンもほとんどいないと思うが、作品を代表するヒットチューンをしっかり自分のものにしているさまは、なんとも頼もしい。

 継承という意味では、クライマックス近くに用意された野原ひろし役・森川智之の“まさかのアレ”の熱唱&スカイアクション展開が、バカバカしくも猛烈にアツい。もちろん、彼が“あの俳優”のFIX声優だからこその豪華なお遊びだが(よく楽曲使用の許可を実現させたものだ)、森川自身のキャリアを『クレしん』の見せ場として正面から活かした、エポックメイキングな瞬間でもあった。2代目ひろしとしての看板を背負った森川智之の、いろんな意味で勇敢なテイク・オフを劇場で見届けてほしい。

 終盤のダメ押し的パニックスペクタクル展開は、わが最愛の1本『クレヨンしんちゃん 雲黒斎の野望』(1995年)の伝奇時代劇→巨大ロボット対決というハチャメチャな飛躍に匹敵すると言ったら言い過ぎか。シリーズ初期のテイストも蘇らせたような『超華麗!灼熱のカスカベダンサーズ』は、橋本昌和監督&うえのきみこ脚本コンビ作としては出色の出来映えではないだろうか。インドパワーの助けを借りて、スタッフの持てる力も存分に引き上げられたかのような快作だ。

■公開情報
『映画クレヨンしんちゃん 超華麗!灼熱のカスカベダンサーズ』
全国公開中
声の出演:小林由美子、ならはしみき、森川智之、こおろぎさとみほか
声の特別出演:賀来賢人、バイきんぐ
原作:臼井儀人(らくだ社)/『まんがクレヨンしんちゃん.com (https://manga-shinchan.com)』(双葉社)連載中/テレビ朝日系列で放送中
監督:橋本昌和
脚本:うえのきみこ
主題歌:Saucy Dog「スパイス」(A-Sketch)
配給:東宝
©臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2025
公式サイト:https://www.shinchan-movie.com/
公式X(旧Twitter):@crayon_official 
公式Instagram:@shinchan_movie
公式TikTok:@shinchan_movie

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