変わらないラッセル・クロウの安心感 『ランド・オブ・バッド』にみる映画の“王道”の味わい

リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。今週は、シューティングゲームが下手っぴな柴が、映画『ランド・オブ・バッド』をプッシュします。
『ランド・オブ・バッド』

任務の前にはシリアルを懐に忍ばせる。勤務中もひいきのバスケットボールチームの応援に熱中する。命懸けの任務の前でも、交わす言葉は小粋なジョーク。そんなコテコテすぎてもはや誰もやらないだろう、みたいな“アメリカ人”像を開幕10分で連発してくる映画『ランド・オブ・バッド』。
本作の舞台となるのは、反政府ゲリラが支配する南アジアの孤島と、戦地に赴く精鋭部隊を遠隔でサポートする軍人たちが待機する基地。元KGBの男に攫われたCIAのエージェントを救出すべく、特殊部隊であるデルタフォースの3人と、連絡係として放り込まれた新兵のキニー(リアム・ヘムズワース)は、密林の奥に佇む敵の本拠地を目指す。
冒頭でも触れたように、この軍人たちは「ジョークを言わないと死ぬのか?」というレベルで小粋なジョークを連発する。
高度からの自由降下は初めてだというキニーに対して、“まだ自分のケツも拭けない”と揶揄したり、狙われているにもかかわらず庭を堂々と歩くターゲットに対し「カフェでもあるのかよ」と言いたい放題。

怒涛のアメリカンジョークの嵐に、ビバリーヒルズからディランとキャサリンがやってきそうなレベルである。
一応彼らの名誉のために弁解しておくと、何もわざわざ冗談を言いにジャングルに来たわけではない。精鋭部隊たる彼らの任務は、誘拐された男性の救出だ。高所を陣取り、ターゲットである元KGBの男に狙いを定める。すると突然、銃を構えた集団が押し寄せ、整備された庭は阿鼻叫喚に包まれる。男の妻は首を切られ、百戦錬磨の精鋭部隊の間にも動揺が走る。そうこうしているうちに、彼らのもとにも男たちが突撃してくる。銃弾が飛び交い、手榴弾が爆発し、あたりは混戦状態。そして新兵キニーは仲間と引き離され、孤立してしまう。

そんなキニーをサポートするのが、空軍大尉の“リーパー”(ラッセル・クロウ)だ。ベテランのオペレーターであるリーパーは、的確に状況を分析し、キニーたちを導く。
本作の最大の魅力は、この無線越しの絆にある。冒頭、デルタフォースの面々に対して告げた、「私が君たちの“目”となろう」というリーパーのセリフにはシビれた。「まぁラッセル・クロウがそう言うなら……」と思わざるを得ない絶大な安心感である。

直接顔を合わせずとも、阿吽の呼吸で敵から逃れ、ときには攻撃に転じるバディ感は、『バニシング・ポイント』のコワルスキーとラジオDJのスーパー・ソウルの関係性を想起させる。思えば、コワルスキーは元軍人かつ元警官でありながらも、警察に刃向かっていたが、本作における彼らも軍人とは思えないアナーキーな部分を持ち合わせている。キニーたちは命令に従わず仲間の救出を優先させ、リーパーは交代時間になっても戦闘に巻き込まれた彼らを案じてオペレーターの席から動こうとしない。仲間を思うがゆえの反骨精神は、最高にカッコいい。
そして何より、目まぐるしく変わる戦闘シチュエーションには思わず見入ってしまった。高所からの狙撃というあまりにも優位な状況から一転して窮地に追い込まれたデルタフォースの面々と、孤立してしまったキニー。ときには川の中で息を殺して敵の通過を待ったり、ときには視界の悪い密林の中で銃撃戦を繰り広げたりと、息を呑むような展開が続く。

中でも私のお気に入りは敵のアジトである豪邸に侵入するシーンだ。バレないように、クッション越しに撃つことで射撃音を誤魔化したり、キッチンテーブル越しに敵の様子を伺う場面は、ゲーム『HITMAN』を彷彿とさせる。
派手なアクション、戦場で生まれた絆、ピンチとジョークの緩急。まさに王道のハリウッド映画であり、コーラを片手に、ポップコーンをつまみながら観るにはこれ以上ない作品だ。
■公開情報
『ランド・オブ・バッド』
TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開中
出演:ラッセル・クロウ、リアム・ヘムズワース、ルーク・ヘムズワース、マイロ・ヴィンティミリア、リッキー・ウィットル
監督・脚本:ウィリアム・ユーバンク
提供・配給:AMGエンタテインメント
2025年/アメリカ/113分/シネスコ/5.1chサラウンド/字幕翻訳:白取美雪/原題:Land of Bad/PG12
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公式サイト:land-of-bad.jp





















