『19番目のカルテ』津田健次郎の“魂”が乗り移った演技　必要なのは患者と医師の納得？

「声を失えば、私は死んだのと同じです」

　『19番目のカルテ』（TBS系）第3話では、人生を左右する決断が描かれた。

　人気アナウンサーの堀田義和（津田健次郎）が魚虎総合病院を受診した。のどの違和感の原因は下咽頭がん。外科医の東郷康二郎（新田真剣佑）は速やかに手術をすすめるが、堀田は拒絶する。堀田はセカンドオピニオンを希望し、総合診療科の徳重（松本潤）に声がかかる。

　自分の一部を失うこと。体の一部というだけでなく、自分自身のよりどころとしてアイデンティティに結びつき、一度なくしたら二度と元には戻らない。命を救う代わりに手放せるかと聞かれたら、あなたならどう答えるだろうか？

　第3話の構成はシンプルだ。堀田が手術を決断するまでが丁寧に描かれる。がんが転移することを考えれば、早期発見で切除して済むなら、選択肢は手術一択のはずだ。堀田自身もそれはわかっている。では、なぜ徳重に意見を求めたのか。

　単にセカンドオピニオンを述べるだけなら、康二郎に同調して、手術を受けるようにすすめればいい。康二郎と父の陸郎（池田成志）が期待したのは、徳重が堀田を説得することだったが、徳重は堀田が納得することにこだわった。

　第3話のクライマックスは堀田の決断の瞬間で、劇中でテレビの画面を通じて視聴者に病気を告白するシーンが見せ場だった。そこに至る過程をひたすら追っていく中で、観るものを引き込まずにいられない熱量の高い演技と、必然性をともなう心情の変化にドラマのエッセンスが凝縮されていた。

　できることなら全て納得して治療を受けたい。けれども、なかなかそうならないのが現実だろう。効率を上げたい医師と、医学の専門的な知識がなく、最後は主治医におまかせになってしまう患者側の事情があいまって、セカンドオピニオンはなしくずし的に運用されているのが実態ではないだろうか。

　徳重はどうしても患者のことを考えてしまうから、堀田が納得するまで、本人の意思をあくまで尊重しようとするが、そんな堀田に、総合診療医の“師匠”である赤池（田中泯）がかけた言葉が味わい深かった。「お前のほしいものは何だ？」と言い、患者と医者の間に立ってうまく収めようなんて無理だと念押しした。

　ここでようやく「納得」が患者だけでなく、医師にも必要だとわかる。愛弟子の徳重が患者のために一生懸命になりすぎるのをわかって、突き放すような言い方で肩の力を抜く赤池が絶妙だった。医師の側の納得には、いろいろな意味合いがありそうだが、患者の人生を背負うからこそ医師も後悔のない決断をする必要がある。

　患者の不安をただ聞いて尊重するのではなく、手術のメリットとリスクを開示して、その上で、医師としての経験から不安要素をふっしょくすること。徳重は自分の考えを伝え、康二郎は自分の言葉で語りかけた。経験と自信を伝えて堀田を勇気づけた康二郎は、執刀医としてやるべきことを全てやったといえる。

　新田真剣佑演じる康二郎は、原作から抜け出てきたような堅物キャラそのもので、抑制のきいた表情からかすかにのぞく感情の揺れがリアルだった。あふれんばかりの熱量を肌の下に隠しながら、一点に向かって淡々と注ぎ続ける松本潤との対峙は、二人の間で交わされる思いと時間の濃厚さが印象に残った。

　声優畑の津田健次郎は、人生の岐路に立つアナウンサーの堀田をどんな思いで演じただろう。かすれ声から思わず大声が出てしまう発声のコントロールは言わずもがなで、津田だから伝えられることが、これまで目にしてきた以上に今作の役柄に込められていると感じた。「どの道を選んでも」という第3話タイトルのとおり、希望を感じさせつつ決め打ちしない制作姿勢は好感が持てる。どの選択もそれぞれが真剣に選んだ結果で、幸福の形は人それぞれである。

■放送情報
日曜劇場『19番目のカルテ』
TBS系にて、毎週日曜21:00〜21:54放送
出演：松本潤、小芝風花、新田真剣佑、清水尋也、岡崎体育、池谷のぶえ、本多力、松井遥南、ファーストサマーウイカ、津田寛治、池田成志、生瀬勝久、木村佳乃、田中泯
原作：富士屋カツヒト『19番目のカルテ 徳重晃の問診』（ゼノンコミックス／コアミックス）
脚本：坪田文
プロデューサー：岩崎愛奈
企画：益田千愛
協力プロデューサー：相羽めぐみ
演出：青山貴洋、棚澤孝義、泉正英
編成：吉藤芽衣、髙田脩
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