『ひとりでしにたい』はなぜ“信頼できる”作品なのか “胸キュン”シーンを描かなかった凄み

『ひとりでしにたい』が描かなかった胸キュン

 カレー沢薫とドネリー美咲(原案協力)による漫画を原作とした『ひとりでしにたい』(NHK総合)は、学芸員をしている35歳の山口鳴海(綾瀬はるか)が、伯母さん(山口紗弥加)の死をきっかけに、孤独死について考えるドラマである。

 第1話冒頭、仕事場で推し活の話ばかりしているお気楽な鳴海の場面と、伯母さんの死という出来事のコントラストが印象的だ。

 伯母さんは、美人でバリバリ働いていて鳴海にとっても憧れの存在であったが、大人になってからはあまり鳴海の家に来なくなっていた。その理由は、子どものころに慕っていた鳴海が、大人になってからは伯母さんのことを見向きもしなくなったことにもあった。これを見て、主人公の中にある無意識の冷たさを隠さない、苦い部分も書いた作品だと思った。

 もっと辛辣なのは、その伯母さんの遺品の中にバイブレーターがあり、それが何か知らずに鳴海は会社に持っていき、友人にドン引きされるシーンである。鳴海の世間知らずな部分を知らしめる部分もあり、かつ、伯母さんの晩年を表す場面でもある。

 ほかにも、浴室で亡くなった伯母さんが、お風呂で追い炊きをされたために、ドロドロの状態であったことを、鳴海の父親が語るシーンがあったり、伯母さんとは違い専業主婦である鳴海の母親がマウントの取り合いしていたシーンがあったりするため、これでは独身の伯母の人生が報われない感じがして、つらい気持ちになっていたのも事実だ。だいたい、人の性のあり方は笑えないものだし、独身男性の遺品にTENGAがあったとき、同じようなシーンになるのだろうかとも思った。

 しかし、第4話で鳴海は伯母さんの死に対する認識ががらっと変わる場面があった。鳴海は伯母さんの遺品のバッグの中に、いわゆる2.5次元的な舞台のチケットがあるのを見つけ、伯母さんの晩年が推し活をしていた自分と同じであることを知る。伯母さんの人生にも楽しみがあり、勝手に悲惨だと決めつけていたことを反省し、「孤独と絶望の中で死んで解けたわけではない」「ひとりで生きても、死ぬまで希望が持てるんだと教えてくれてありがとう」と考えるようになったことが示されていて心底ほっとした。

 伯母さんのお墓参りに行った際に、長く手をあわせ故人をしのんでいるのを見て、「これだけ長いこと手を合わせてくれるんだから、言うほど孤独死じゃないと思いますよ」と言ったのは、鳴海の同僚の那須田優弥(佐野勇斗)だ。

 彼は官庁から出向中のエリートで、伯母さんの死をきっかけに婚活をしたりしている鳴海に興味を持ち、何かと行動を共にしているのだった。

 第5話は、彼と鳴海の心理戦に惹きつけられた。本作は、孤独死について考えるドラマながら、後半はそこから一歩踏み込んで、人と人の関わり方に焦点が当てられているのが興味深いのだ。

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