そして、のぶがいなくなった高知新報では、真っ白な紙を前にじっと座る嵩の姿が。典型的なスランプだ。手嶌治虫が新聞に描いた漫画を前に落ち込み、そしてのぶがいないことに落ち込む。最終的に「お前、入稿まであと3日だぞ！」と東海林（津田健次郎）にドヤされた。やはり高知新報でのやりとりは、『あんぱん』のユーモアを担う部分であると改めて実感した。

　取材のかたわら、子どもたちに名前の漢字を教えているのぶ。のぶが再び「教育」に携われるようになったのには、高知新報での経験と鉄子の手伝いを通して軍国教育の罪滅ぼしができたという想いがあるのだろう。

　のぶが東京に来て2カ月。いつものように、ガード下に向かうと新聞を読む八木（妻夫木聡）の姿が。昭和21年12月21日、和歌山県の熊野灘を震源とする地震が発生し、高知県に甚大な被害を引き起こした。現在では、昭和南海地震と呼ばれており、マグニチュード8を記録し、特に津波による被害が大きかったようだ。

　現代では当たり前の素早い報道ができない時代。ラジオを聞いても市内ごとの被害は分からないままだ。のぶは大きな不安に駆られることになる。のぶは、くら（浅田美代子）や羽多子（江口のりこ）、蘭子、メイコの名前を呼んだあとに、「たっすいがやき、嵩……」と口にする。のぶが家族と同じくらい嵩を心配していることがよく分かる。心配しながらも、東京にいるのぶは何もできない。のぶが最後に目を向けた『月刊くじら』の表紙と鏡に映る自分の顔。この地震でのぶの中に生まれた嵩を失うかもしれないという恐怖が、2人の距離を縮めることにつながるのだろうか。

■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送／毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送／毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送／毎週土曜10:15～11:30再放送
出演：今田美桜、北村匠海、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、高橋文哉、眞栄田郷敦、大森元貴、戸田菜穂、戸田恵子、浅田美代子、吉田鋼太郎、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子ほか
音楽：井筒昭雄
主題歌：RADWIMPS「賜物」
語り：林田理沙アナウンサー
制作統括：倉崎憲
プロデューサー：中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出：柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供＝NHK