立川シネマシティ・遠山武志の“娯楽の設計”第52回
Web予約は映画館をどう変えた? “直前来場”とコンセッション混雑問題の実情
東京は立川にある独立系シネコン、【極上音響上映】【極上爆音上映】で知られる“シネマシティ”の企画担当遠山がシネコンの仕事を紹介したり、映画館の未来を提案するこのコラム、第52回は“映画館のWeb予約/購入の浸透とその影響”というテーマで。
映画はWebで予約/購入して観るもの、というのもすっかり定着してきて、僕のいる立川シネマシティでは直近1年間の数字を見てみると、6割以上のお客様がWebでの予約/購入となっています。
もちろんこの数字は映画館によって差があると思います。シネマシティは上映開始20分前までならお客様が自由に無料でキャンセルができるというシステムですので、かなり予約率は高いほうではあると思います。
演劇や音楽ライブでは、当日に会場でチケットを買う方が珍しいと思いますが、映画もそれに近づいていくのは間違いないでしょう。
たとえ混雑していなくとも、会場に向かう途中にスマホでささっと購入してしまって、券売機や窓口に行く手間がはぶけるのは大きいです。スマホで購入しておけば、映画館だけでなく、最近は演劇や音楽ライブ、美術館などにいたるまで、スマホ画面のQRコードで直接入場可能なことが多く、チケットレスで入れるのがまたありがたい。列に並ぶ必要なく、券どこいったとカバンの中身をかき回すこともなくなります。
もちろんモノとしてのチケットがなくなったら、それはそれで寂しい方も多いとは思います。コレクションしている方も少なくないですしね。美術館なんかだとWeb購入してもわざわざその展示会の画像が印刷されたチケット半券をくれるところもあります。
この進化によって、いくつか問題点も見えてきています。
しばらく前から気になっているのは、ほとんどの映画館のWebでの予約/購入は「早いもの勝ち」であることです。
演劇や音楽ライブのチケットを扱う大手チケットサイトではかなり前から人気演目では「事前抽選」が一般的になっています。ある期間中に申し込んでおいて、当否連絡を待つというものです。
「早いもの勝ち」システムはお客様に決まった時間でのアクセスを強要することになる上に、場合によっては長時間トライし続けなければならず、受ける側もアクセス集中で処理しきれずに長い待機時間が発生したり、最悪トラブルが起こったりもします。
ところで突然話が変わりますが、直近で今年最大の話題作である『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』が7月18日から公開になります。ただでさえ初週の週末分は予約/購入のアクセス殺到が予想されますが、今年は前作の時よりも格段にヤバいことになりそうです。なぜならば2025年の3月末からクレジットカード決済の3Dセキュア導入が原則義務化され、このことが決済処理速度をかなり低下させています。争奪戦に参加予定のファンの方は、お覚悟を。
話を戻しますが、常に全作品を対象にする必要はありませんが、明らかにアクセス集中が予想される作品については、映画館も事前抽選システムの採用を考えるべきかもしれません。
申し込む側も決まった時間の待機が不要になり、通信速度に悩まされることもなく、そのサイトでの操作の慣れ不慣れに左右されない公平感があります。映画館側もアクセス集中によるトラブルに戦々恐々とする必要がなくなります。
問題は、座席選択ができないことでしょう。演劇やLIVEに比べれば、映画館は座席位置による鑑賞の質のバラツキは少ないと思います。演劇などは最前列付近と最後列付近では同じ作品を観たと言えるのだろうか……と感じることもあります。ドームライブなんか外野席だったりすると、盛り上がっている下のほうのファンを、妙に冷静に眺めたりする時間も少なくないわけです。
それにもかかわらず、席の自動振り分けが受け入れられています。ですが、映画館で選択なしに席が振られたら抵抗のあるお客様も多いでしょうね。
これは単に「慣れ」の問題だと思いますが、事前抽選が必要なほど人気の作品がそうそうたくさんあるわけではないので、抽選に参加する機会が少なく、馴染むのにずいぶん時間が掛かりそうです。
当選したものの、席が気に入らないから変更しろ、と要求してくる方は少なくないような気がします。こんな席なら返金しろ、とか。
実は映画館でも、どんどん増え続けているライブビューイング系は外部チケットサイト販売のことも多く、事前抽選で座席振分けの場合がすでにあります。この場合は大抵「音楽/演劇」作品なので、お客様も慣れていることがほとんどで問題なくやれていますが、はたして通常の映画でもうまくいくかどうか。
また別の問題もあります。「直前来場問題」とでも言いますか、座席はWebで購入済み、スマホみせるだけだから窓口/券売機に寄る必要もなし、と便利になったことで、お客様が来場する時間がどんどん直前になっているのです。