『LAZARUS ラザロ』唯一無二の“アニメ音楽” 渡辺信一郎ら劇伴へのこだわりを徹底総括

 『LAZARUS ラザロ』の魅力とは何か。リッチな作画? 豪華な声優陣? 否、本作最大の魅力とはすなわち音楽だ。本作では渡辺信一郎監督のほかエレクトロニカの大手から現代ジャズの最先鋭まで、『ラザロ』は流行を捉えつつもおよそアニメらしくない3名が起用されている。最終回を控えた『ラザロ』を最後まで楽しむため──あるいはまだ観ていない人にその魅力を伝えるため──今日は本作の音楽を担当するミュージシャンたちについて語ることにしよう。

渡辺信一郎の音楽

 渡辺は初監督TVアニメ『カウボーイ・ビバップ』の時点からアニメ音楽を重要視していた。菅野よう子とSEATBELTSにビバップ風のOP曲をリクエストし、OSTの大半をモダンジャズで構成するなど、当初から劇伴に挑戦的だったことは周知の通り。ジャズに限らず、『サムライチャンプルー』ではかのNujabesやチル系ヒップホップDJのFat Jonを起用するなど、常に幅広い音楽をアニメに取り入れてきた。近年ではカルトアニメ『Sonny Boy』に「音楽アドバイザー」という(謎の)肩書きで参加していることからも、アニメ音楽の専門家めいた立ち位置が窺える。

カマシ・ワシントン

KAMASI WASHINGTON @Blue Note Tokyo(2015 10.30 fri.)

 その柔和そうな表情に反し、カマシ・ワシントンの音楽はとにかく力強く、激しい。情熱的なジャズに壮大な混声合唱を織り交ぜる「スピリチュアル・ジャズ」のスタイルで知られ、本作にもアクションによく合うエネルギッシュな音楽をフルアルバム(11曲:73分)で提供している。

 デビューアルバムはディスク3枚、3時間にも及ぶ大作『The Epic』。血湧き肉躍る壮大な本作はフライング・ロータスが主催するレーベル〈Brainfeeder〉からリリースされているが、ここに『ラザロ』劇伴の2/3を占めるエレクトロニカ界との関わりが見える。なお、フライング・ロータスの『You’re Dead!』収録「Cold Dead」にも直接演奏で参加している。

 ヒップホップ界との関わりで馴染みのある読者も多いだろう。ケンドリック・ラマーの『To Pimp a Butterfly』『Damn』の数曲でサックスを、ハーフタイムショーでも披露された「tv off」で指揮を担当しているほか、スヌープ・ドッグの「Ego Trippin’」やチャイルディッシュ・ガンビーノの「Bando Stone and The New World」といった曲にも参加している。

 OP曲の「Vortex」も担当しているが、The Vergeのインタビュー曰く実は「Lazarus」がOPに選ばれるものだと思っていた……という余談も。

Floating Points

Floating Points - 'Fast Forward' (Official Video)

 シンセサイザーの魔術師、Floating Pointsについても語ろう。クラシックやジャズなどあらゆる音楽を融合させ、唯一無二のグルーヴを実現している彼の音楽は、第1話の逃走シーンで流れる既存曲「LesAlpx」からも分かる通り『ラザロ』の物語にサスペンスとワクワク感を与えている。本作にはやや短めのミニアルバム(6曲:33分)を提供した。

 16人編成オーケストラのFloating Points Ensembleを主催したり、ロンドン交響楽団およびサックス奏者のファラオ・サンダースとコラボしたり(『Promises』)と、デビューから現在に至るまでマルチジャンルに活躍している。DJとしても世界中を飛び回るその多才さには限界がないかのようだ。

 日本では宇多田ヒカルとのコラボレーションでも知られ、『BADモード』で共同プロデューサーを務めたのち『SCIENCE FICTION』にトラック(「Electicity」)を丸ごと提供している。ちなみに『Cascade』のジャケットを担当した中山晃子との対談記事も公開されている。

 余談だが、彼は神経科学の研究で博士号を取得しており(※1)、ハプナをはじめ医学・生物学要素の散りばめられた『ラザロ』との縁を感じる。さらには『Promises』でコラボしたファラオはジョン・コルトレーンと長年活動を共にしていたことでも有名だが、このコルトレーンの曾姪孫にあたる人物にロータスがいるのも興味深い。

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